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『東京藝大 仏さま研究室』 #おすすめの美術図書

毎月恒例(というかもはやこれしか記事を上げていない)オ美研月イチお題note企画参加投稿、6月のテーマは「#おすすめの美術図書」です。

専門書ふくめノンフィクション系の書籍が多く集まるんじゃないかなと思って、僕は小説を選んでみました。

『東京藝大 仏さま研究室』 樹原アンミツ
集英社文庫
2020年10月21日発売
文庫判/336ページ
ISBN:978-4-08-744172-7

こちらです。

東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室

という実在の研究室を舞台に描かれた、青春小説です。

「仏さま研究室」と呼ばれるその研究室では日夜、仏像を修理したりつくってみたりが行われています。

僕は青春小説が好きで、東京藝術大学にも興味があって、けど仏さま……つまり仏像にはあんまり興味が持てないなあという状態で、しかし前の二つの要素に惹かれて手に取りました。

で、読んでみた結果、仏像にも興味が湧いてきました。正直まだまだ「好き」までは至っていないんですが、これまでの無関心、むしろちょっと苦手、というところから、美術館やお寺ではちょっと気になって見てしまう、というところまで心動かされました。

本書を読む前の、僕の仏像に対する認識というのは、お寺や美術館に仏像の形としてそこに在るもの、でした。

しかし本書ではその制作の過程がたくさん描かれていて、そうか仏像といっても(もちろん宗教的にはとても大切な存在であるけれど)僕が普段見て魅了されている彫刻作品と同じように、様々な技術を駆使して人の手によって現されたものなんだ、ということに気づかされました。

また、修復にまつわる描写もふんだんに描かれています。考えてみれば当たり前なんですが、数百年、下手したら千年以上前の仏像が、いくら大切に扱われていたってそのままの形で残り続けるわけありません。

たとえば虫による食害に対して燻蒸消毒し、虫食い穴に樹脂を充填するなど、その修復保存作業が詳しく、しかしわかりやすく描かれていてとても読み応えがありました。

さらに、もちろん信仰の対象としての仏像も描かれていて、そこに日本の風土や歴史を感じることもできました。

青春小説としての読み応えもばっちりです。メインとなる四人の学生はそれぞれ、学生時代特有の悩みや葛藤、問題を抱えています。それとどう向き合っていくのか、彼らの奮闘が眩しく、愛おしかったです。

それから、彼らを見守る先生や大人たちも、一癖二癖三癖ある、魅力的な人々でした。

青春小説としても、仏像の制作・修復に関する読み物としても楽しめる本書。片方だけしか興味がなくても、もう片方の面白さにまで気づかせてくれる、一冊で二つの味が楽しめる作品です。

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