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アイドルが夢を諦めるということ

私はジャニーズオタクだ。
中学生の時、周りの友達に合わせるようにして初めて関ジャニ∞のアルバムを買った。高校生になって、ジャニーズのファンだと名乗らなくなる子もいる中で、私はずっと関ジャニ∞が好きだった。
初めてコンサートに行った時の感動を、忘れることはできない。大きな音、眩しい照明、ペンライトの海。そして目の前で輝くアイドル達。こんなにも素晴らしい世界が、夢のような空間があるのだと思った。30代が目前に迫った今でも、その景色は鮮やかに私の網膜に焼きついている。

数年前から追いかけ始めたKing & Princeは、本当にキラキラした宝物のような時間をくれた。その中でも、私は岸くんが好きで、彼の優しさや暖かさ、努力家なところ、そしてなにより彼の持つ天性の愛され力に惹かれていた。
コンサートのチケットは当たりにくくて、だからこそ会える時間が特別だった。ステージに立つ岸くんは堂々としていて、メンバーと楽しそうに笑ったり、ファンに優しく微笑みかけたりしていた。MC中、「岸くん聞いてる?」って言われるくらい、気を抜いてぼんやりしているところも愛おしかった。
この人はこのグループで1つの時代を築いていく。その瞬間をこの目で見届けたい。一瞬たりとも、目を逸らしたくない。そんな風に思わせてくれるような人だった。

そんな岸くんが、自分には夢を叶えられないと言う。

「自分には器用さがない。」

「ねぇ、キンプリやばい」友達からLINEの通知が来たのが始まりだった。ツアーの発表?まさか。この前したばっかりじゃん、と思いながらTwitterでエゴサーチをする。出てきたのは、脱退と退所の文字。そして、大好きな岸優太の名前。脳の処理が追いつかない。書かれてあることを読もうとしても文字が滑る。呆然と見つめていた画面に、さらに友達からの通知が届く。「FCサイト全然繋がんない」そのメッセージを見て何故か、あぁ本当なんだと思った。

少し経てばFCサイトにもアクセス出来るようになったのでログインする。1番上にある、大切なファンの皆さまへ、というリンクをタップした。
やっぱり文字は滑ってしまって何も飲み込めなかったけれど、最後に書かれた直筆の「岸優太」の文字を見て、ダムが決壊したみたいに泣いた。
来年の秋にはもういないのか。もうステージに立つ岸くんを見ることは出来ないのか。

ひとしきり泣いた後、怖かったけど動画を見ようと思った。岸くんがどんな言葉を発するのか、知りたかったから。
動画の中で、岸くんは「自分の夢を自分で否定する自分が嫌だった」と言っていた。「今挑戦させてもらっていることと、世界に通用するスキルを磨くことを両立する器用さがない」とも。
アイドルが夢を諦める。もちろんアイドルだって人間で、出来ることと出来ないことがあって当たり前だ。それでも私は、どこかでアイドルという存在を神格化していたような気がする。彼らはいつも宝石みたいにキラキラ輝いて、私たちに夢を見させてくれると。

「仕事が楽しければ楽しいほど、辛かった。」

11月10日。永瀬廉がラジオの向こうで泣いている。「脱退と退所が決まってから、仕事が楽しければ楽しいほど、辛かった。」そう言った声は震えていた。
3人が抜けることを知りながら、5人は全国ツアーを行なった。彼らが笑顔の裏にしまいこんだ本音を、私たちは1%も知ることは出来ない。

"Show must go on. "
ジャニーさんが大事にしていた言葉。何があっても、誰が何を思っていようと、舞台の幕は上がる。そして幕が上がった以上、アイドルは輝き続ける存在でなくてはならない。
舞台の幕が上がるとき、5人がどんな気持ちでいたか語られるときはきっと来ないような気がする。ペンライトの海に囲まれて、残る2人と去る3人は、どんなことを思ったんだろう。
ファンは傲慢だ。私たちの笑顔が、声を出せないコロナ禍での静かな熱狂が、ほんの少しでも、去っていく3人の心残りになれたら良かったのに、と思ってしまう。そんな私たちの傲慢さを許してほしい。少なくとも私は、岸くんが歌って踊って、笑っているだけで沢山の力を貰えたし、明日もまた頑張ろうという気持ちになれたのだから。

正直、発表当時は、私たちファンが持つこの気持ちはアイドルに届くことなんてないんだな、と思った。
でも、そんな気持ちを救い上げるのもまたアイドルなのだ。永瀬廉はラジオで「ファンの気持ちはアイドルに届かない、なんて思わないでほしい。皆さんの気持ちは届いてる。だから、俺と海人は残る選択をした」と言った。
コンサートに行くと、たまに思う。私たちファンにとってはアイドルは唯一無二の存在だけど、アイドルにとってはファンという大きな括りでしかない。当たり前のことなのだけれど、たまにそれが虚しく感じられる時がある。だからこそ、あなた達ファンの気持ちが、僕たちをこの場に繋ぎとめくれた、という言葉はどうしようもなく力強く響いた。こんなにも真摯で、まっすぐな永瀬廉を推している人たちは本当に幸せ者だろうと思う。

アイドルが夢を諦めるということ

最初に言っておく。責めるつもりは全くない。そもそも責める権利なんて最初から無い。アイドルだって人間で、自由に人生の選択が出来る。当たり前のことだ。
BTSのメンバーが言った「アイドルというシステムが人を成熟させない」というのは真理だ。アイドルだけではなく、"何かであり続ける"ということは、"他の何かになる選択を捨てる"ということなのだから。もちろん両立できる人もいるだろう。アイドルでいながらも、別の顔を持つことだって不可能ではない。自担には、それがプレッシャーで、両立できない現実が苦しかったのだ。自分で自分を否定することの、出来ない自分に嫌悪することの苦しさを私は知っている。だから岸くんには、今はゆっくり寝て美味しいご飯を食べて、たくさん好きなことをしてほしい。そしてまた、いつか夢が見つかったら、またたくさん努力をして、真っ直ぐに夢に向かって突き進んでほしい。その姿を見れるか、見れないかは分からないけれど、私は応援する。
彼らのデビュー曲『シンデレラガール』には、こんな歌詞がある。

だれもがみんな嘆いてる 
"恋の魔法には期限がある"
"時が経てば宝石もガラス玉さ"
もしもそんな日がきたって
キミは朝の光にかざして
それを耳元に飾るだろう
ボクはまたキミに恋するんだろう

King & Prince『シンデレラガール』

世界中のどんなことにも永遠なんてないのだ。それでも私たちファンは、アイドルとファンの間に永遠を見出そうとしてしまう。でも、全てのことがそうであるように、私たちの間にも永遠なんてものは存在しない。
それでも私は信じずにはいられない。岸くんはまた新しい夢を見つけて、それにとびっきりの輝きをのせて、一歩ずつ歩いていくことを。もしそれが、私の目にも映ることがあるのなら。そうなればきっと、私はまた岸くんを好きになって、あの大好きな広い背中を追いかけたいと思うはずだ。

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