マガジンのカバー画像

謳う魚、騒がしい蟹達

96
稲垣足穂『一千一秒物語』のオマージュ作品です。
運営しているクリエイター

2015年5月の記事一覧

星空観察者の話

 市立公園の広場で望遠鏡を設置して夜空を覗き込んでいた男が、突然大慌てをしてポラロイドを望遠鏡に当てて撮影した。
 男が出てきたピールアパート・フィルムの剥離紙を剥がすと、そこにはカーボンアークランプが写っている様子だったが、私が声をかける暇もなく男は望遠鏡を片付けると、その場から姿を消してしまった。
 その日は、いつも通り星空が瞬いていたのだが、結局、男が撮った写真がなんであり、それがどうなった

もっとみる

写真の事件

 ある日新聞を開いたら、報道写真の一枚に私にそっくりな人間が写っているのに気がついた。
 あまりに私に似ているので新聞社に電話をかけて聞いてみたら、今朝から同様の問い合わせが殺到しているのだと担当者は随分と困っている様子だった。
 そもそも、その写真というのが、電話局の屋上から市電通りを撮影したもので、たくさん人が写っているのだが、その写真を撮影した日に、誰もそんな場所を歩いた覚えはないことはおろ

もっとみる

路上の月の話

 ある日の昼下がり、ストリートを歩いていたら、歩道の植え込みの近くの煉瓦の上に、お月さまを見つけたんだ。チョークで書かれた、マンホールくらいの、真ん丸いやつ。
 通行人もそれに気がついてよってきたけれど、いまひとつお月さまだという決め手がない。なので、私はシガレットを口にくわえると、煙をフウゥッ!と吹き掛けてみたのさ、そしたら、煙が真ん丸に近づいたところで、スッと真ん丸に吸い込まれると、煙が周辺に

もっとみる