路上の月の話

 ある日の昼下がり、ストリートを歩いていたら、歩道の植え込みの近くの煉瓦の上に、お月さまを見つけたんだ。チョークで書かれた、マンホールくらいの、真ん丸いやつ。
 通行人もそれに気がついてよってきたけれど、いまひとつお月さまだという決め手がない。なので、私はシガレットを口にくわえると、煙をフウゥッ!と吹き掛けてみたのさ、そしたら、煙が真ん丸に近づいたところで、スッと真ん丸に吸い込まれると、煙が周辺に一気に広がったんだ!
 実は三角形が高速で回転して丸く見えているのが、一目瞭然なのさ。それで、結局それはお月さまってことになったんだ。
 いざお月様だと分かったら、こんなところにいたんじゃ、見つからないはずさって言いながらみんな帰っていくんだ。
 その夜もいつも通りにお月さまが上っていたから、結局、昼間のお月さまの居場所なんて、関心がないってことさ。

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