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謳う魚、騒がしい蟹達

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稲垣足穂『一千一秒物語』のオマージュ作品です。
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2014年12月の記事一覧

金貨を拾った話

 ある夕刻、私がストリートを歩いていると、私の山高帽子にコツンの何かが当たり、それはカラカラと地面を転がった。私がそれを拾い上げてみると、一枚の金貨だった。
 金貨とは言えど、それはこの世に一枚しかない、即ちはお月さまだっだのだが、私が家に持ち帰って窓際のデスクの上においていたら、突然に窓の外から差し入れられた誰かの手がパッと金貨を持っていき、次の瞬間お月さまは元通りにお空で輝いていた。
 私はあ

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車に押し込まれた話

 私がストリートを歩いていると、突然、黒いフォードが走ってきて、さっと首根っこを捕まえて連れ去られてしまった。それを見たポリスが6連発でフォードを撃つと、パチンという音がして大きな破れたゴム風船だけがストリートに残された。
 通行人がゴム風船の残骸の近くにおそるおそる近づいたが、そこから行進曲と共にフォードの広告がたくさん舞い上がったので、何だコマーシャルだったのかと、みなが胸を撫で下ろした。
 

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土星ができた話

ツー、トントントントン。

オツキサマ、ニシカラヒガシニ、オソラヲトンデ、マチノヒトハオオワラワ。

ツー、トントントントン。

ソシテ、ウッカリジブンヲオトシタオツキサマ、シガレットノケムリニクルマレナガラ、マチノナカヲクルクルコロガリ、ヒトソウドウ。

ツー、トントントントン。

コロガリコロガルオツキサマ、コップノナカノ、ウキワニハイッテ、ソレハソレハ、ヒトツドセイノデキアガリ。

ツー、ト

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ある猫の話

『ある海岸で水と珊瑚と砂糖を混ぜたものを猫がペロリとなめたらカモメになったんだってさ。』

横を歩いている友人がそういったので、ハイそうですかと適当に返事をしてとりあわずにいたら、フーッ!と猫の叫びと共に友人の姿が消えてしまった。

私はいまできたばかりの痛む腕の引っ掻き傷を押さえながら、アセチレン灯の照らす路地裏へスーっと消えてゆく黒い尻尾を眺めていた。