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竹になれ

ある日、いつもの病院にいつも通り入院していました。
傍に酸素マスク、ステロイドの点滴。
子供の頃からの変わらぬ風景です。子供の頃と通っている病院が違うだけのこと。

そんなある日、片目だけ瞳孔が開きました。
眩しくて、眼帯をしても、その下にハンカチを挟んでみても眩しい。
歯に着せぬ物言いの、親しき眼科医曰く、「死人よりも瞳孔が開いている」

すぐさま、頭部MRI、股関節が痛かったのでついでに股関節もお願いしました。

その日、午後3時過ぎくらいに病棟主治医がやや険しい顔で病室に入り、私のベッドサイドに歩み寄ります。握りしめられたMRIの画像なんて見なくても嫌な予感しかしませんでした。

「灯ちゃん、落ち着いて聞いてね」
「無理だと思うから、もういいよ。聞きたくない」
「灯ちゃん、まず股関節の話から……」
「いーやーだー!!」

私の両股関節は中学生の頃から、長きに渡りステロイドを服用していた副作用で、壊死しておりました。
いつか来るかもと思っていた、絶望。
「痛かったね」
脚よりも、心が痛いよ、先生。

「それから、頭なんだけど……」
そうだ、頭。頭も何かあったの!?
「二十箇所くらい、病変があったんだよ。今、神経内科の先生たちに診てもらってる。放射線科と」
「いやあああああ!」
「灯ちゃん、灯ちゃん」

新婚の頃の出来事です。
この検査があったからこそ、両脚の手術が終わり、頭のMRIも適宜撮って、増えているか確認できるようになりましたが、私も夫も絶望の淵にいました。
なぜこんなに次々と。
病は絶対に平等じゃない……なんてらしくないことを考え、頭を抱え込んでいました。

そんな折、恩師がお見舞いに来てくださり(新幹線で雪の中を駆けつけてくれたので長靴のままでした)、話をじっと聞いてくださいました。

その時、彼はこう言ったのです。

「竹のようになりなさい」

置かれた場所で咲きなさい、とかではなく?
竹?
先生は、例えがおっさんだなあ。
なんて、泣き笑いで返したのですが、彼はとても真面目な方なので
「あーちゃん、よく聞いて」
と、話をずらそうとする私の目を見て、話してくれません。

竹はよくしなる。
節があるから。
だから、大きな風が吹いても折れることがない。
これは、あなたにとって、節のひとつなのだ。
あなたは、今まで苦しい思いを人よりもたくさんしてきた。
だからこそ、あなたは、竹になれる。

胸を打たれた私は、夫と親友にその話をしましたが、
「こんなに傷ついている人間にこれ以上節を作れだと!?」
と、鼻息を荒くして怒ってくれましたが、私はそれを聞いていつも通り笑うことができました。
もう、新しい節ができて、葉音を立ててサワサワとしなっていたから。

あれから、私の節はいくつ出来たのでしょうか。


いつか作業所とアトリエを作るのが夢です。寝たきりになる前に、ベッドの上で出来ることを頑張ります。