名前

わたしはメインの仕事で人の名前など個人情報を扱っている。
日本で10世帯しかないような珍しい苗字の人や、コレはどうなの?というようなきらっきらネームを目にすることも多い。

この前目にしたのは、「◯シキ」さんという名前の女性。音だけでいうと間違いなく男扱いされる名前だ。
漢字は覚えていないが、漢字も女性らしくはなかったと思う。
その人は、名前で男と思われてずっと苦労されてきたのだろう。
必死に「子どもも2人産んだ。私は女性だ」と訴えるメモ書きまでついていて、心が暗くなった。

わたしの母親は5人姉弟の四女として生まれ、男性にしか使わない漢字の名前をそのまま読みだけ変えて付けられた。
当然大事にされることはなく、愛情の枯渇した自己肯定力のない大人にー毒親になった。
明らかに母親の父母(じぃさんばぁさん)は戦犯だ。
名前が子どもに与える影響を考えると心がゾワゾワする。

音は男っぽい?名前でも「ヒサト」さんという女性が知り合いにいるが、この方からは全く暗さを感じない。ステキな名前だと思う。
自分に誇りを持っていて、名前もちゃんと好きなんだろうなと思う。


わたしは自分の名前があまり好きではない。
弟と妹の名前はは父親が考えたもので、2人とも漢字一文字で統一性があるが、わたしの名前は全くの他人に付けてもらった系。
漢字も2文字。
何より呼びにくい。
一文字目に「ちゃん」をつけるか、フルで呼ぶくらいで、あだ名にアレンジすることもできない名前だ。
結婚して苗字が変わるまでは、苗字も名前も両方とも、珍しくもなく面白くもないフルネームだった。
「みきちゃん」とか「さきちゃん」とか、「かおりちゃん」とか「ゆかちゃん」とか、キラキラでもシワシワでもない呼びやすい名前が羨ましかった。
何より親から名前をつけてもらっていないのが一番イヤだったんだと思う。

名前のことなどもあり、小学校の頃親に薄々大事にされていないと感じていたわたしは、本気で自分は橋の下で拾われたのではないかと疑っていた。
たぶん、冗談で「アンタは橋の下で拾ってきた」とか言われたことがあったんだと思う。
母親は、笑ってそんなわけないでしょ、と否定した。
半ば本気で信じられるくらい待遇が悪いのに、それをしている方は笑ってるとか。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ、この子は」としか思わなかったんだろう。
ちゃんと笑わないで否定して欲しかった。

たしかに母親にはあまり似ていないが、引越す前の町内で、もしわたしが迷子になっても父親の顔を知っている人であれば、わたしを家に連れて帰ってもらえる、と言われるくらい父親には似ていた。
自分で似ていると思ったことはないが、そこまで言われたら少なくとも父親の子どもではあるらしいと口をつむぐしかなかった。


パートナーは、わたしの呼び方を根本から変えてしまった人だ。
友達にも親にも名前をフルか、1文字目に「ちゃん」くらいでしか呼ばれたことがなかったのに、まさかの最後の1文字の方を使ってあだ名にしてしまった。
おかげでずいぶんと呼びやすくなったのか、パートナーの妹さんも、ばあちゃんも、お義父さんも、みんなそのあだ名で呼んでくれた。
今までそんな発想はなかったので、新しい名前をもらったみたいでとてもうれしかった。
わたしをこの名前で呼ぶのは、パートナーだけの特権だ。



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