見出し画像

前十字/後十字靭帯損傷 (MOI編)

今回はMOI (Mechanism Of Injury、受傷機転)についてです。

前十字靭帯(ACL)と後十字靭帯(PCL)は、脛骨の前後の動きと、大腿骨と脛骨の捻じれを制限するストッパーなのですが、このストッパーとしてのリミットを超えるような負荷や、靭帯が脛骨と大腿骨に挟まれるような負荷がかかると損傷となります。

ACL (Anterior Cruciate Ligament)

ACLは、脚に体重が乗っている状態で膝の過伸展(脛骨の前方へのズレ)や膝の内反(膝が捻れて"内に入る"状態)が起こると損傷してしまいます。一番のポイントとなるのはこの、「脚に荷重がかかっているか(体重が乗っているか)」です。脚が浮いている状態であれば、膝にかかる殆どの負荷は逃せられますが、荷重状態(縦軸上の負荷が膝にかかっていると)だと膝にかかる力を逃すことが出来ずに靭帯にも大きく負荷がかかります。

これらはタックルなど他選手との接触(コンタクト)から起こる、もしくは接触はない(ノンコンタクト)ものの膝を捻ってしまい負傷する場合、両方が考えられます。

①ノンコンタクト型

では実際にスポーツの場面ではどのようなことが考えられるでしょうか。まずはノンコンタクトタイプでいくつか代表的な物をバスケットボールを例を挙げていきます。

A. 過伸展

画像1

少し遠くから目を細めて見てもらうと、リバウンドからの片足着地に見えてくるかと思います。右側の写真で膝が過伸展しているのがわかります。膝が伸びきった状態で着地してしまうと、床からの反発力と体重が膝にかかり脛骨が前方にスライドすることで過伸展となります(黒矢印が関節にかかる負荷、赤が結果として起こる膝の動きだと思ってください)。

画像2

「過伸展=脛骨が前方にスライドする」というのは、膝関節に過伸展が起こると、下の写真のように脛骨上を大腿骨が滑るように動くために、脛骨が大腿骨に対して前方にスライドすることでおこります。

画像10

画像4

この状態になるとACLに強く張力がかかり、負荷が大きくなれば損傷となります。

B. ツイスト

次に捻じり(ツイスト)の動きが加わった場合です。同じくリバウンドの場面での例となります。

画像5

リバウンドを取った後、パスの出しどころを見つけました(着地前)。

画像6

これはかなり大げさに角度を着けていますが、着地と同時にパスを前方に出したため、上半身と下半身でねじれが生じています。股関節や体幹でうまくを吸収しきれなかった場合、膝に体重と床からの反発力からくる圧力に加え、足が固定されていることによって大腿骨が脛骨に対して外側に捻じれる負荷もかかることになり、ACLに損傷が起こってしまいます。

C. 切り返し動作と膝の内反

一般的によく知られているであろうACLの受傷機転が切り返し動作となります。わかりにくいかもしれませんが、下の写真はドリブルをしている所だと思ってください。左足で切り返して右に方向を変えようとしています。

画像7

画像8

この時に股関節のコントロールがうまくされていないと、股関節の内旋(内に捻じれる動き)が起こります。足はすでに地面についているので、股関節につられて膝も内に入ることになります(膝の内反)。足が固定されている中で膝の内反が起こると、大腿骨に対して下腿が外に捻じれることが起こりACLに負荷がかかります。

②コンタクト型

次にコンタクトタイプをアメフトのQBを例に挙げていきます。

A. 過伸展

下の写真はQBがボールを投げる場面で、左脚に体重がかかっている状態で膝に前からコンタクト(黄色矢印)を受けたところだと思ってください。外力によって後方への力が加わることで、膝が体重を支える圧が後方に流れ結果として過伸展させられてしまいます。

画像17

B. 内反

今度は左足を踏み込んでいる際に外側から膝付近にタックル(黄色矢印)を受けた場合です。

画像11

下腿は固定されているため力の逃げ場がなく、膝が内に入り(内反)、上体は反動で反対側に揺さぶられます。結果として膝関節に捻じれも生じACLに大きな負荷がかかることになります。

画像12

C. 巻き込まれ

次はノンコンタクトだとあまり見られませんが、コンタクトだと起こりうる例です。QBがボールを投げている/投げた後に、DLに倒された自チームのOLが後方から激しく転がってきた(黄色矢印)場面だと思ってください。

画像13

足首が固定されている状態で膝を後方から巻き込まれると、上体(膝から上)は反動で後ろに振られますが、膝下には後方から前方に押される力が加わります。結果として下腿が前方に引き出されるのですが、更には後方から真っすぐ前に巻き込まれるというよりもやや斜めから入ってくると捻じれの力も加わり、ACLに更に大きな負荷がかり損傷してしまいます。

画像14

PCL (Posterior Cruciate Ligament)

PCLは、体の構造的にも靭帯の強度的にも、ACLのようにノンコンタクトの捻じれの動きによって損傷することはあまりなく、大抵の場合は何らかのコンタクトによって損傷します。

コンタクトによって下腿が大腿骨に対して後方に強く押し出されるというのが、主なMOIとなります。下の写真のように、ダイビングキャッチをしている場面で膝を地面に打ち付けると...

画像15

下腿は地面からの反発で大腿骨に対して後方にズレてしまいます。

画像16

他にも、アメフトやラグビーなどでボールを持って走っている際に、体重を支えている左脚の膝下部に激しくタックル(黄色矢印)を受けると、

画像17

下腿はタックルによって止められている(もしくは後方に押されている)ものの身体はまだ前に進んでいる状態のため、脛骨が後方に強く押し出されてしまいます。

画像18

膝の過伸展でもPCLを傷めることはありますが、PCLの場合、膝の屈曲位でより受傷しやすくなります。

膝関節は動く際に下の写真のように蝶番のように動くわけではなく、

画像19

先に過伸展で説明したように、大腿骨は脛骨上を滑るように動きます。屈曲の際には次の写真のように大腿骨に対して脛骨が後方に滑る動きをします。

画像19

PCLは脛骨の後方への動きを制限していますので、膝を曲げた際に張力がかかることになります。ですので、膝が90度に屈曲している時に、コンタクトなどで脛骨が後方に押される、又は巻き込まれて捻られてしまうとよりPCLを損傷しやすくなってしまいます。

MOI まとめ

思ったよりかなり長くなってしまいましたが、以上が一般的なACLとPCLのMOIについてとなります。

もちろん、このような動きをしたからと言って必ずしも損傷が起こるわけでもありません。全く同じMOIでも、コンマ何秒かの差で体重が乗り切っておらず力を逃すことができたり、同じ強度の負荷でも関節周囲の筋力によって靭帯を守る事が出来たりもします。

また、このようなMOIが起こった際にACLだけ、またはPCLだけ損傷するわけでもありません。やはり捻じれの動きが加わってくると半月板損傷を、膝の内反があればMCL損傷を併発する可能性は高くなります。横からタックルを受けるような大きな負荷によってケガをした場合は、ACLだけでなくMCLと内側半月板を同時に損傷することもあります。これはUnhappy Triad(日本語にすると「三重の不幸」とでもなりますか)とアメリカでは呼ばれていますが、そんなに珍しいケースではありません。膝にかかる負荷の強度や種類によって様々なケガの組み合わせが起こり得ます。

次回はSpecial Test(徒手検査)についてです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?