妖精

風の強い朝
おまけに雨が降りそうだ

引きずるように
駅の改札を抜けてホームへと向かう

朝のラッシュは気合いを入れないと
怪我をしたり、乗り遅れたりする

ホームから溢れそうな人の波

「はぁ」とため息をついて最後尾に並ぶ

ホームのアナウンス
「ただいま、15分少々の遅れが発生しています」

(今日もかぁ)

僕は深いため息をつく

遅延を伝えるアナウンスは日本だけらしい
時間通りに到着と発車をするのも
日本らしい

正確さを好む日本人らしさなのか

海外から訪れる人は驚くらしい

僕にとっては毎日の光景であり、
珍しくもない

朝のラッシュも当たり前だ

(この様子だと、次の電車かな)

電車は数分おきにくるから
満員になり乗れなくても
何の問題もない

僕は何気なく腕時計をみた
時計の針は7時30分を指していた

ふと
ホームの中に聞きなれない「音」が響いた

電車の到着を告げる曲ではない

何だろう?
僕は音の元を探してキョロキョロした

うん?

行き先告げる電光掲示板の上に
紫の髪の綺麗な女の子が楽器を抱えて
座っていた

えっ?あんな所にいたら、危ないよ

心配する僕と目があった女の子は
にっこり笑って楽器をひとなでした
ホームに音符が流れ出した

だけど
誰も気にも止めない

えっ、えっ?
もしかして、見えてるの僕だけ?

「あ、あの…」
僕の声は入ってきた電車の音にかき消された。

到着した電車の扉が開き、人の波に押されて電車の中に押し込まれた

満員電車で押されながら
息苦しさに耐えながら
僕は「彼女」を探した

紫の色の髪の綺麗な女の子は
電光掲示板の上から
こちらを見下ろして
発車のベルに合わせて歌い出した

僕の視線に気づき
小さく手を振った

「いってらっしゃい」
小さな唇がそっと動いた

電車はゆっくりとホームを離れた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?