彼女に届かないことを祈る

LINEの既読無視やら未読無視やらに悶々とすることになるとは、28歳。言い訳をするのであれば、それは好きだったからなのであって。恋の終わりを予感した2024年8月の終わり、その思いをなんとはなしに書いてみることにした。noteを選んだのは、彼女も人知れずnoteに何やら思いや考えを綴っていると聞いたから。秘密のそのアカウントを覗くことができなかったのは、一つの無念に他ならない。この僕の失恋の記録が、彼女に届かないことを祈る。

彼女の話をしよう。
彼女とは7月の終わりにマッチングアプリを介して出会った。初めて会った居酒屋がかなり騒々しくて、お店選びを間違えたなと思いながら、遅れてやって来る彼女を待った。第一印象は、事前のメッセージの通り、写真のまんま、つまり思った通りの人が来たということ。楽しそうに話すのと、美味しそうにお酒を飲む姿が印象的だったのを覚えている。

騒々しい店でひとしきり飲食を終えて、トイレにたった僕。戻って来ると彼女がお会計を済ませていた。こういうのって男がやるやつじゃんと思い、情けない気持ちになった。それと同時に「なんか良い女だな」と日本酒で少しだけぼやけた頭の中で思った記憶がある。「次のお店行こ!」と笑顔で言う彼女に、この時既に惹かれていたんだと思う。

店を出ると雨が降っていた。次の店の当てがある彼女はGoogleマップを開き、店へ電話する。幸い空いていた店に滑り込むことができた。道中、僕は勇気を出して足元のややふらつく彼女の腰に手を添えていた。後に「腰持たれるのってあんまりないけど安心した」と彼女に言われるそのファインプレー。触れたいという思いあれど、ノースリーブの露出した肩に手を回したり、いきなり手を繋ぐのにひよっただけだった。

2軒目、焼酎を何杯か飲み、楽しく談笑する。彼女が「どんなタイプが好きなの?」と聞いて来た時、「脈ありの女子がする質問じゃん」と胸が踊る。本当に脈ありだったのかは、聞けずじまいだった。ぼちぼち帰ろうかというタイミングで、今度は僕が彼女がトイレに立っている間にお会計を済ます。終電という概念を恨んだのは初めてだった。来る途中と同じように腰に手を添え、酒を飲んでも妙に意識ははっきりしていたせいで、ドキドキしていた。階段では転ばないように手を繋いだ。既に酔っていた彼女は覚えていないかも知れない。「京王線はあっちだ」と間違った方向に歩き出す彼女の手を取って、改札に向かう途中、「もう少し一緒にいたい」と言えないのが僕。だけど、次があると自信があったから、大事にしたいからその言葉をグッと飲み込んだ。改札まで彼女を送り、後ろ姿を見送る。何度か振り返り手を振る彼女を見て、「脈ありの女子がする行動じゃん」と再び胸が躍った。

彼女との話に夢中で、LINEを交換しそびれたことに気づく。帰りがけアプリのメッセージでLINE交換しようと持ちかける。返事がないことに焦りを覚えつつも、翌日無事に返信がありLINE交換に至る。この時、本当に僕はガッツポーズした。最後にガッツポーズをした時のことを思い出せない。それくらい渾身のガッツポーズだった。

LINE交換をして、次のデートの日取りが決まる。良い感じだぞと思ったよそれは。「パフェ食べたい」という彼女。夜デートが明るいうちからのデートに変わってウキウキの僕。結局、パフェを探したけどなくて、カフェを梯子した。小さなこじんまりとしたカフェで、店主と仲のいい家族の交流や家族の娘さんのバレエ発表会を見守り、なんだか幸せをお裾分けしてもらった。幸せな気分のまま、居酒屋へ。飲むと彼女はテンションが高くなる。ずっと見ていたいくらいそれが可愛い。2軒目もしこたま飲んで、3軒目を探し放浪。突き進む彼女に従っていると、間違ってガールズバーに入ってしまった。そんな意味不明なイベントもなんだか楽しい。ガールズバーは結局、空気が会わずすぐ出たけど、その後また放浪している間にお兄さんに声をかけられる。「さっきお店来てましたよね?」と。よく見ると2軒目の店員さんで「カードケース忘れてましたよ」と教えてくれたおかげでクレカ諸々無くさずに済んだ。お兄さんが声をかけてくれたのはきっと、僕のことを覚えていたというより、一緒にいた彼女が美人だからだろう。僕じゃなくて彼女に気付いてたっぽかったし。そんな風に色々あった二回目のデート。僕の手は彼女の腰に添えられていた。その2人の型に、なんだか僕も安心したんだ。

唐突に高いところから電車を見たいという彼女のメッセージによって3回目のデートが決まる。日本酒アイスを食べて東京駅の電車たちを高いところから見下ろそうというプラン。のはずが、結局電車は見ずに日本酒アイスを食べて東京駅を徘徊して、神保町に行くことに。三田線と東西線を間違えて、駅員さんにお手数をかけて、いざ神保町へ。古本屋をのぞいて古地図などを見ていこうとしたけど、古本屋はお休みと閉店時間。なんだかうまくいかない日だなあと頭をよぎり出す。結局飲みに行くことになるのだけど、少し遠めの行きたかったお店は夏季休業。別のお店を2軒ほどハシゴした。2軒目がめちゃくちゃ暑くて結局すぐ出た。まだ時間があるからと新宿に移動。この間のお店に行こうと尋ねるが、ここも休業。もう一軒見てみるも、そこも休業。何もかもうまくいかない日が、僕はなんだか愉快だった。うまくいかな日が楽しいなら、きっと何してもこの人となら楽しいんだろうなって思った。

結局、鳥貴族へ。僕は鳥貴族デビューだった。空いていたのに2時間で出され、再びのお店難民。終電はとうに過ぎていた。彼女が「50メートル走勝負しよ」という。今走ったら酔いが回って確実に吐く確信があった。それでも、彼女が走り出したら、僕はきっと全力で50メートルを駆け抜けただろう。

「どうしようか?」と決めきれない僕に痺れを切らした彼女が言う。「ホテルでも入って寝よう」とかそんなようなこと。当然その選択肢は僕にもあったけれど、下心があると思われて嫌われたらという気持ちで言えずにいた。彼女の手を取り、ホテル街へ。実はラブホテルに行ったことが僕はなかった。右も左も分からない中、適当なホテルに入り込む。この時既に、3時を回っていて割と睡魔が限界だった。部屋に着くと少しだけ休んでからお互いにシャワーを浴びる。脱衣所がなくて部屋に風呂がすぐのパターンでドギマギする。トイレから出るとたまたま彼女が風呂場から出たところで、バスタオル一枚の彼女と出くわす。咄嗟に目を隠して背を向ける。こういう時に僕の理性は仕事をしすぎる。

それから何事もなく歯を磨いてそろそろ寝ようかとなる。「ソファで寝て」なんて冗談を言う彼女を説得して、2人でベッドに入る。2人の間には20センチくらいの隙間があった。電気を消して「おやすみ」と言い合ってから、「好きでもない人とこんなところ来ないからね?」と僕は言った。彼女が「ということは?」とイタズラに問いかける。「好きということです」と突然のキモい敬語。「嬉しい」と言いながら抱きつく彼女。この世の幸せの全部がそこにあったと言っても過言ではなかった。布団の中で絡みつけられる彼女の足のすべすべとした感触が心地よかった。ハグしたり、足を絡ませあったりしながら、彼女が言った「ちゅーしたい」はこの世で一番尊いものだった。そしてそっとちゅーをして眠りについた。

朝起きると、下半身を盛大に投げ出した彼女の姿があった。ホテルのバスローブ風の服はどう寝ても捲り上がって来るので致し方ない。起きる前にひとしきり眺めてから布団をかけてあげる。彼女が起きると、仕事を控えている僕は何時には出るよと伝える。「もっと一緒にいたい。ずっとここにいる」と駄々を捏ねる彼女。このわがままを聞いてあげなかったことは今でも後悔する。そのまま仕へ。充実感が凄かった。

台風が近づく中、彼女が家に遊びに来ることに。「帰れなくなったら泊めてね」なんてメッセージに当然のように「もちろん」と返す。帰れても泊まっていいんだから。というわけで泊まりに来た彼女。お好み焼きともんじゃを食べて、家でお酒を飲む。いつものように楽しく話しながら、夜も更けて寝ることに。2人でベッドに入ると彼女の「ちゅーしたい」砲が炸裂する。もちろんする。当然する。この間よりも濃厚なちゅーをひとしきりして、もっと先へと思うものの、彼女は明日は予定があると言っていたことを思い出す。臨戦体制になった息子を落ち着かせ、眠りにつく。彼女も待っていたのだとしたら申し訳ない気持ちでしかないと後になって気づく。

彼女を送り出して、今度花火一緒にしたいねなんて話をしていると、僕が体調を崩してしまう。そこから雲行きが怪しくなった。病院行きなねとか心配のLINEが来るものの、心なしか以前よりも返信する時間とか量が減っている気がする。そして今週、既読無視。数日後に改めて送ったLINEも未読無視。何が起こったのか皆目見当もつかない。痺れを切らして生存確認のLINEも翌朝になってもかえって来ない。

まだ終わりと決まったわけではないけれど、彼女の気持ちが離れているのを感じてしまう。たまたま忙しいとか、体調が悪いとか、そういうことではない意識的に避けているような感じがしてしんどい。

今思えば、僕と彼女の間に温度差があったようには感じる。彼女から好きと言ってくることはなかったし、連絡の積極性もあまりなかった。僕はこのまま結婚して一生一緒に!って気持ちだけど、彼女は僕のことを彼氏(仮)としか思ってなくて、見極めが終わったら捨てられてもおかしくないと考えたこともある。

これまでの経験と、今の手応えから、僕の恋は終わったんだと直感する。彼女との思い出を書き連ねてうちに、余計にしんどくなる。このままフェードアウト、自然消滅なのか。こういうけじめはしっかりしてくれる人だと思ってたから、それすらしてもらえないのが余計に苦しい。

僕の過去の恋愛のトラウマを聞いて、寄り添ってくれたのに、新しいトラウマになってしまうことが悲しい。「女運がない」と嘆く僕に「見る目がないのを運のせいにするな」と詰った彼女が、こんな風に終わりを告げてくるのだろうか。

この未練がましい失恋の記録が、彼女に届かないことを祈る。
その反面、彼女に届いてしまえとも思う僕がいる。

追記:朝起きたらLINEがブロックされていた。最後が無責任なことに少しだけ腹を立てて、腹を立てたことで悲しみが軽くなった。そういう彼女なりの優しさなんだと思うことにして次の恋に進もう。


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