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立憲民主党の課題 ~ 2021 衆議院選挙の結果を受けて

1. 政策の重点がずれている。 正しさには投票しない
2. 陥った批判の罠 - 批判で被統治側の印象が定着した
3. 有権者とのコミュニケーション不全

4. 支持者組織化の戦略の欠如
5. こたつぬこ、田中信一郎教授の客観視を
6. 分配と支え合いは政治課題の一部でしかない
7. 構造的政策の必要性
8. 経済政策、産業政策、科学技術政策、他
9. 明るさと、多少の和風イメージの必要性
10. 日本リベラル固有の問題
11. 日本人の問題

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 選挙結果が出た機会に、支持者としての立場から、今の立憲民主党の課題について、まとめました。基本的に上記のような項目から成り、まず第一項目から公表します。他の項目は、追って公表します。

 問題点の指摘の本文に入る前に、選挙結果や、立憲民主党のこれまでの歩みについての私の考えを先に話しておかなければ、問題点の指摘についての私の意味を取り違えられるかもしれません。このため、これまでの立憲民主党や枝野代表を含む執行部についての私の評価を先に、ここでごく簡単に記載しておきます。

 2021年10月末の衆議院議員選挙の結果について、私の感じは、候補者を一本化する野党共闘は戦術として成功、立憲民主党としての有権者からの支持は、あと一押しではっきり突き抜けられない壁にぶつかった。というものです。
 そもそも自民党も15議席減らしている中で、立憲民主党の議席が1割程度減ったからといって、解党的出直しが必要などという声が出るのは、騒ぎ過ぎだと思います。紆余曲折の範囲内。但し、結果を冷静に分析して改善に繋げ、また前に一歩出ていくことが必要だと思います。
維新については、私は等身大に見たほうがいいと思いますし、政党としては否定的に見ていますが、立憲民主党にない、有権者の意向を代弁している所があったために大阪以外でも得票したと思いますので、よく分析して、立憲民主党の今後の補強に応用したらよいと思います。

 これまでの枝野執行部に対する評価としては、以下の本文の主旨である、数々の問題点を感じてきましたが、基本的には、無原則に大きな塊を作るべきだ、という新聞テレビ等の圧力に抗し、はっきりリベラルが軸の政党を作ったこと、また、おびただしい困難を克服して、野党共闘を成し遂げた事など、これまでについては一貫して高く評価してきました。枝野代表個人に対する信頼も高く持っています。ただし、少なくとも今のところ、限界も大きい、というのが私の見方です。

以下、本文になります。


1. 政策の重点がずれている。 正しさには投票しない


2021年10月の選挙の立憲民主党の主要な敗因は、大まかに三つあります。

一、有権者の期待と政策の重点が大きくズレていた事、

二、批判が恒常化して、一種の自動的な癖になり、被統治者イメージを強化してしまった事、

三、有権者とのコミュニケーション不全

 この三つです。

 まず、政策の重点のズレです。

 最初に2021年9月7日に、以下の、立憲民主党が#政権取ってこれをやる vol.1「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」として、打ち出したリストを見てください。これは、事実上、選挙前に選挙用として、党が最初に出した政策リスト、と言ってよいと思います。党側は、あくまで政策ではなく、文字通りの「初閣議で直ちに決定する事項」の意味のリストを出したもの、というつもりだったかもしれませんが、有権者の側は、党の「基本政策」と受け取った人も多かったのではないか思います。

 以下、その引用です。

1. 補正予算の編成(新型コロナ緊急対策・少なくとも30兆円)
2. 新型コロナ対策司令塔の設置
3. 2022年度予算編成の見直し
4. 日本学術会議人事で任命拒否された6名の任命
5. スリランカ人ウィシュマさん死亡事案における監視カメラ映像ならびに関係資料の公開
6. 「赤木ファイル」関連文書の開示
7. 森友・加計・「桜」問題真相解明チームの設置

 当時、支持者の人でこれを見て、これが有権者に与える印象は、「きびしいな」、と思った人も少なくないかもしれません。

 普通にみれば、一般有権者向けではなくて、リベラルの、政治にひじょうに関心の高い、コア支持者を対象に書かれた文章のような気がする文書です。コロナの感染者は少なくなりつつあったとしても、コロナ下で、多くの人が生活の不安を感じていた時期での選挙です。この時に、金額はひとまず置くとして、「補正予算編成」、「コロナ対策司令塔の設置」、「2022年度予算編成の見直し」、という項目が、最初の三項目です。これでは、有権者向けのメッセージではなくて、あたかも党内向けに書かれた内部文書のようです。

 有権者は、コロナの感染をどう防いでくれるのか、経済をどう上向かせて、自身の家計不安をどう和らげてくれるか、が頭の大半を占めている時のことですから、その時に、このような事を書かれても全く心に響かないでしょう。確かに補正予算が組まれれば、各種支援等がされる事になると思います。しかし、一般の有権者は、国会議員とは圧倒的に政治的知識の差があります。単に「補正予算」を編成する、と聞いただけでは、ピンとくる話ではありません。政治家なら、そうした有権者の理解のレベルが分かっている必要があります。また「コロナ対策司令塔の設置」。これだけでは、その司令塔?を設置した結果として、何をしようとしていたのかが、全く分かりません。「2022年度予算編成の見直し」、に至っては、ほとんどの人は、それが、行われたとして、自分に対して、どんな影響があるのかわからないでしょう。

 さらに、学術会議人事で任命拒否された6名の任命、ウィシュマさん死亡事案の映像と資料の公開、赤木ファイル、森友・加計・「桜」問題、等については、立憲民主党が本当に政権を取って取り組んだなら、多くの国民は支持すると思います。しかし、これらは選挙前に、生活不安の中、懸命に働いている国民に言う事ではないと思います。少なくない国民は、ここで挙げられたような問題が、テレビ、新聞で報道された当時、学術会議人事の任命拒否はよくない、入管が外国の人に酷い扱いをしているのは、たいへんよくない、と心を痛めたと思います。また、今でも、それらに全く関心がないわけはないと思います。しかし、立憲民主党の総選挙の政策、と誤解される形でこれらが出てくるとなると、話は別です。多くの有権者は、「自分が主に立憲民主党に期待しているのはそれでない」、と、立憲民主党への期待がある人ほど、大きなショックを受けるような提示の仕方であったと思います。

 これは、単に一例です。全般に立憲民主党の出している政策の重点と、多くの有権者が中心に置いて欲しい、と考えているよう政策との間には、今のところ、この文書に象徴される、ひじょうに大きなズレがあるように感じられます。あくまで「重点が」ですが、少なくとも選挙での提示の仕方としては、明らかに誤りでした。

 ツイッターで「#政権取ってこれをやる vol.1」で検索すると、21年11月01日の@634tw、という人のツイートで、以下の下りが見つかります。

 「立民の #政権取ってこれをやる はVol.1の内容がそちらの方向けにチューニングされすぎてたのが敗因じゃないかな」
 「今の立民自体がある意味、庶民の意識をわからなくなってる感じがすごい」

 言葉は悪いですが、私もそれに近い感じがありました。立憲の多くの議員が、こうしたリストを最初に出すことがとても適当、と考えたとは思えないので、執行部が作ったものがこうなった、という感じかと思います。この@634twという人の他のツイートをずっと見るに、この人は立憲に投票したかもしれないような人のようにも思われ、このような政策提示の仕方の深刻さが分かります。

 なお、この#政権取ってこれをやる、はvol.10まであって、それぞれ、

Vol.1 初閣議で決定すること
Vol.2 多様性を認める社会へ
Vol.3 地域を守る政策
Vol.4 住宅政策
Vol.5 現実的な外交政策
Vol.6 経済政策
Vol.7 エネルギー政策
Vol.8 子ども子育て政策
Vol.9 若者政策
Vol.10 ジェンダー政策

 となっています。決して先にあげたVol.1 が立憲民主党の政策全体だったのでは全くなく、あくまで、もし政権を取ったなら、初閣議で直ちに決定する事項、でした。中長期的な政策ではなく、閣議で決めるだけでその日から動きだせるリストだったわけです。 ですから、今の私が書いたように、「政策の重点がズレている」、と言うと、Vol.10 まである広報の一部でしかないから誤読だ、という見方もあると思います。また、これを提出した立憲民主党のほうでも、そのように考えるかもしれません。しかし、このリストを見た有権者の側は、よほど効果的にはっきりと説明されない限り、これが立憲の主要政策か、と思ってしまう可能性は高いです。こうした広報の最初の印象はひじょうに強烈です。それでも読んだ側の誤読、ということはできますが、それは最初に挙げた、有権者のコミュニケーション不全、という別の問題につながります。

 実際、これらに限らず、立憲民主党が選挙中に前面に掲げた政策は、選択的夫婦別姓や、LGBTの人たちが同様に生きていける社会、多様性を認める社会、など、「正しさ」、にひじょうに大きな重点が置かれています。さらには、重点が置かれているというより、他の事が閑却されている、かの如くの印象を与えていると言えます。コロナ下で多くの人がひじょうに重たい生活不安を抱えている中で、有権者から、その解消の優先順位は、この人たち(立憲民主党)にとっては、ずっと下のほうなんだな、と思われること(そのような印象を与えること)は選挙対策上、たいへんよくないことは言うまでもありません。

 立憲民主党の普段からの国会での活動を見る限り、実際にはこれらの生活不安への対処は、おそらく政権を取ったら自民党よりはるかによいだろうと思います。しかし、有権者のうちの必ずしも少なくない部分の人が受け取る印象としては、「優先順位は低い」となってしまいますし、また所属議員の関心も、マイノリティーの人や生活保護を受けているような本当の弱者の人たちの救済に偏りがちで、一般的な市民がどうしたらよい暮らしができるか、という視点が相対的に見て、やや少ないように思われます。ツイッターなどを見ていても、私のフォローの仕方によるのかもしれませんが、所属議員の発信は、ジェンダーの平等、マイノリティーの人の権利、尊厳、生活、法律の遵守、民主主義の価値の擁護、などにやや偏っている感じがします。そして、ごく一般的な市民、庶民の生活がどうしたらよくなるか、日本が国として全体にどうしたら国力が上がるか、という視点からのものが同様にやや少ないように感じられます。だからといって、立憲民主党がそれらを実現する力が自民党より低いとは全く思いませんが、いま挙げたような事柄についての発信が、全体の発信の中で占める割合がかなり高いと、一般的な市民、庶民から、「私たちの生活はあまり重視されていないのか」、という「印象を与えてしまう」のです。確かに、文書を改竄しない、憲法の解釈を勝手に変更したり、という事は、民主主義や国の態勢の根本に関わることで、極めて重要です。しかし、一般的有権者がこれらに自分の生活や、国の経済的安定感と比べ、どれだけの重要性を感じているか、ということは、政治のプロとして、同時に冷静に判断している必要があると思います。これらの重要性について、一般の有権者が政治の専門家である政治家と比べ、ひじょうに理解が低いことは、それはまた別個の問題として厳然とあり、それはそれでたいへん大きな問題です。しかし、そこに有権者が圧倒的な関心を持っていなければ、票が入らず、国会での勢力で取れるはずのものが取れないことによって、それらの大きな問題を正せる可能性も少なくなってしまうのです。それを判断できるのが、専門知識であり、国民に責任を追ったプロの仕事だと思います。
 また、私は、ジェンダーの平等、マイノリティー、社会的弱者の人たち生活、多様性などはたいへん大切なものと思いますし、私自身も外国人の人たちの生活や権利に関する関心はひじょうに強くあります。日本は、これらの面て先進諸外国と比べても、たいへん大きな問題を抱えていると思います。しかし、選挙はたくさんの票を集めた党が政権を担当するものでありますし、総合的な国力は、明かに社会的弱者の人たちの生活も向上させるし、全体に豊かな社会のほうが多様性への嗜好が強いように思いますので、ごく一般的な市民、庶民の生活を向上させること、総合的な国力を増すことを中心に置きながら、ジェンダーの平等や、弱者救済などを進めて行くのが政党としての望ましい姿だと思います。また、それらの課題の実現の上でも効率的なように思います。まず票を集めて政権を取れなかったらそれらは実現できないわけですし。

 私は、私自身の別の本で地裁への提訴から最高裁の判決まで、15年かかったある裁判の経緯を書いています。このような個別事案について、十年以上かかる裁判はたくさんあります。それらには、支援者や原告の長期に渡るたいへんな労力が注がれています。ご存じのように国を相手取った裁判は、それほどにたいへんな苦労をして続けてさえ、敗訴が多いです。ところが、これらの何十メートルにおよぶ巨大の岩を手でノミで削っていくような努力をして、やっと一部が解決されるような問題は、政権を取っていれば、大臣が一言言って、あるいは担当課長が一瞬、決済を仰いで、30分で解決しそうなものが多くあります。市民運動で解決をめざしたり、野党の立場で国会で追及、運動するより、政権与党になったほうが遥かに効率がよいわけです。ですから、政党は、個別の問題に注力することと合わせて、政権を取ることを最重要と考える姿勢が求められていると思います。

 朝日新聞の2021年10月21日の紙面に、明治大学准教授 飯田泰之(いいだやすゆき) という人のインタビューが掲載されていて、たいへん示唆に富むと思いますので、気になった部分を引用します。

「政策や主張が倫理的なのです。賃金を上げる、中小企業の税金を軽くするといった実利よりも公正やマイノリティーの権利といった理念が優先されているように見受けられます。支持母体の労働組合や労働者の関心とずれています」

「高学歴インテリの政党のようになってしまい、言葉が固定ファンにしか届いていないのです」

「少なからぬ国民は、性的少数者の権利や夫婦別姓より、今の生活の苦しさを問題視しています」

 引用終わり。

 特に、「高学歴インテリの政党のようになってしまい、言葉が固定ファンにしか届いていない」というのは、私も同様に感じるところです。インテリというのは、本をたくさん読んでいて、様々なことについて知識が多いということです。これは、明かによいことです。また、学歴も、学歴が高いほうが知識の多い人も多いですから、基本的には政治家の基礎としてよいことです。ですから、知識が豊富で高学歴なことは、それ自体は明かに良い事です。一方、問題は言葉が「固定ファンにしか届いていない」状況であることです。一般的な市民、庶民の生活や、生活意識が、一定数の立憲民主党議員には、十分には分かっていない面があるように思われます。また一般的な市民や庶民によく伝わるように話し方もしていないように思います。政治は、すべての市民、庶民に対してまんべんなく奉仕することですから、この点はひじょうに大きな問題といえます。

 全体的に考えて、国民生活は、経済、外交、軍事、生産、科学技術、教育、世論、メディア、法律、労働、など多様な要素の上に成り立っているものです。それらを、構造として有機的にロジカルに捉えた、構造的な政策が練られることが必要です。
 また、問題点を改善し、また選挙で勝利して政権を取る、または維持するためには、一般の市民、庶民の生活意識、考えを吸い上げ、政策、および広報に反映させるシステムも必要です。
 この両方が立憲民主党はまだあまりよく出来ていないように思われます。今回の選挙で掲げられた政策も、かなり、偶然に左右された時事問題に引きずられているような感じがあます。また、見方によれば、とってつけたような感じを受けるようなものも、かなりあるように思います。構造的によく練られた、という印象を受けません。また、それらの政策に、一般の市民、庶民の生活意識がたいして反映されていないように感じるのは、地方組織が脆弱で、地域にまだ十分根をはっていないため、普通の市民、庶民の考えを吸収できておらず、吸収してもそれを執行部まで伝えるシステムがまだ整備されていない、ことが影響しているとも考えられます。

 以上、書いてきましたが、野党共闘のたいへんな成功にも拘わらず、政権交代するかも、と思わせる状況にまで至らなかったのは、「有権者の求めているものと、立憲民主党が提示したものの間に、明かに大きなズレがあったから」、というのが大きな三大敗因の一つです。これをしてほしい、こうしてほしいという強い願いがあるところで、それと違う事を訴えたから十分に心に響かなかったのです。共闘は戦術として成功だし正しいものでした。それは現有の実力をどれだけ発揮できるかという戦術的成功です。一方、そのような正しい戦略をとっても、自民党にかなり多くの選挙区であと一歩まで迫っても競り負けた、あるいは維新という、ノーマークというか認識が甘かった勢力に一部票が流れて、あと一歩のところの敗因になったということです。今回の選挙結果は、立憲民主党が党自体として、有権者の心を十分に掴み切れなかった、有権者が心から求めているものと、党が提示したものの間に、ズレがあったという警告であったと思います。フランス革命に始まる民主主義の歴史にしても、明治維新にしても、すべての改革運動には、歴史を研究すればすく分かりますが、紆余曲折かあり、長い時間をかけて多くの人の努力によって達成されていくものです。立憲民主党、議員、支持者、リベラルの理想を持つすべての人は、今回の選挙結果について深く反省し、分析し、改善すべき点を見極めて、じりじりと明るい気持ちで、改善、改善、また改善、と一歩一歩思いの実現に近づいていくべきです。いままでの遠い道に比べれば、かなり近いところまで来ていると思います。

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No.2、No.3へのリンクは以下です。

2. 陥った批判の罠 - 批判で被統治側の印象が定着した
3. 有権者とのコミュニケーション不全

No.4 以下はまだ書き終わっていません。

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