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無関心という病、関心という着火点。

第二次世界大戦中のナチス・ドイツ、アドルフ・アインヒマンという将校がいました。

彼はユダヤ人を虐殺する事業に携わり、ヨーロッパ各地で捕らえられたユダヤ人を列車に乗せ、収容所にあるガス室で処刑した最高責任者でした。彼はまじめで仕事熱心な人だったので、戦争が激化し、物資や車両が不足してユダヤ人を移送できる列車の確保が難しくなると、交通省と何度も交渉を重ねて列車を確保しました。熱心に仕事に励み、戦争が終わるころにはとうとう500万人以上のユダヤ人を虐殺しました。
戦争が終わると、彼は大量虐殺を実行した主要人物として逮捕されましたが、偽名を使って西ドイツから逃げました。偽名を使い、別人になりすまし、西ドイツからイタリア、イタリアからアルゼンチンへ、目立つ行動を慎みつつ、人知れずひっそりと13年の逃走生活をおくりました。
1960年、彼はついに捉えられます。偽名を使い、すっかり別人になりすまし、息をひそめて逃走していましたが、ついに正体が判明してしまったのです。彼がアドルフ・アインヒマン本人であることが判明した決め手となったのは、アインヒマン夫妻の結婚記念日に、彼が妻に花を買っていたからだったそうです。


無批判、無関心という病

普通の人で、まじめに仕事をしていたとしても、自分がしていることに疑問や関心を持たないままでいれば、ホロコーストのような残虐な行為の主人公になってしまうことがある。アインヒマンの逮捕は社会に大きな波紋を呼び、後の心理学の研究対象になりました。ミルグラム実験やスタンフォード監獄実験によって、無批判や無関心な心理は、人を悪人にも変えてしまうという悲しい結果を証明しました。

2022年2月24日、ロシア軍によるウクライナ侵攻によって、世界を取り巻く情勢が変わりました。
日本国内でも憲法第9条の改定、防衛費のGDP比2%への引き上げなどの安全保障。原油高の高騰とCO2排出量の削減、エネルギーの問題。すでに顕在化していた国の財政や少子高齢化、人口減少の問題に加えて、新たに議論していかなければならない問題が生まれています。

私たちを取り巻く日本の社会も、民主主義という関心によって成り立っています。行政が取り組むべき課題であっても、行政を執り行う政治家を選ぶのは私たち有権者です。有権者が無批判や無関心になってしまう、有体に言えば有権者が愚かになってしまえば、民主主義は最悪な仕組み、衆愚政治に陥ってしまいます。民主主義が機能しているかを測るバロメーターが投票率であり、これは同時に、無批判や無関心という社会の病を測る数値にもなっていると言えます。


関心という着火点

無批判や無関心に陥らないように、つねに関心を持つことを能動的に意識していることが大切で、ひとたび関心を持つ対象が見つかれば、その関心がなんらかの新たな行動の動機づけになる可能性を秘めることになります。行動の着火点は、関心を持つことからはじまります。

マーケティングの用語で『AIDAモデル』という購買心理を表したものがあります。パーチェス・ファネル(purchase funnel、購入の漏斗)とも呼ばれ、1920年頃に提唱された古くからある理論で、人が購入にいたるまでの心理の変遷を表しています。興味深いことは、この心理過程が関心からはじまっており、マーケティング以外にも広く汎用性のある考えかたであるという点にあります。

A ⇒ Atenttion、関心
I ⇒ Interest、興味
D ⇒ Desire、衝動
A ⇒ Aciton、行動

これらの心理過程を表した四つの段階の頭文字をとったのがAIDAモデルです。
人間が行動に至るまでの心理の変化 - この場合は購入という行動ですが -  これを民主主義に当てはめれば投票率という民衆がどれほど政治に関心をもっているかを測る指標になり、これを仕事という行動にあてはめれば、モチベーションやワーク・エンゲイジメントなどの働きがいが生まれる働きかたのモデルを表しているように思います。マーケティングのために心理を表したシンプルな法則は、他の様々な行動にもあてはめて考えることのできるモデルであり、すべてのはじまりに「関心」があり、関心が行動の着火点であることは非常に示唆に富んだことです。

ヘレン・ケラーが残した言葉に、『 愛の反対は憎しみではなく、無関心である。』という言葉があります。ここで最後に、関心の反対は面倒くさいと思うこと、という僕の自戒を込めた言葉を残したいと思います。

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