1・ひかりのはこと伊東少年
2011年。米国防総省は、コンピュータネットワーク内に広がる仮想空間を『第5の戦場』と定義。サイバー空間上の攻撃には、武力をもって対峙すると宣言した。
戦闘地帯と非戦闘地帯を物理的に分けることができる、陸上や空中といった空間と違い、我々が買い物や映画鑑賞を楽しむ場所と、我々に不利益をもたらそうと考える輩が、光の速さで接触できてしまうサイバー空間の安全保障は、そのまま社会生活の安全保障と不可分の問題でもある。
情報の流動と集約は我々を幸せにするか。長年のテーマに一つの考え方を提示したゲームがあった。私はこのゲームを、ある人物に見せたくなった。このゲームは彼の目に、どう映ってくれるのか。
伊東寛
慶応義塾大学大学院工学研究科を卒業後、陸上自衛隊に入隊。初のサイバー戦部隊であるシステム防護隊初代隊長を勤め、情報セキュリティの世界を渡り歩き、それらに関する著書も多数。経産省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官などを歴任。現在も大手ITセキュリティ企業で最高技術責任者を務めるという異色の経歴は、本作を語るのに、これ以上を望めない人物ではなかろうか。
ご好評いただいた前シリーズに続き、ゲームをリアルに分析するインタビュー。8回にわたってお送りする伊東寛の「視点」から見えてくるのは、ただのアクションゲームとは一線を画す、WATCH DOGS2の「畏るべき」正体だった。
(文中の太字の用語は文末で解説しています)==================================================
ATUSI(以下A):本日はお忙しい中お越しいただいてありがとうございます。
早速ですが、伊東さんのことは共通の知人から「おもろいおっちゃんだ」と伺っていたんですがw、お話するのは初めてなので、まず生い立ちを簡単に伺いたいと思います。ご出身はどちらになるんでしょう?
伊東寛氏(以下伊東):出身?出身て……ナニ?
A:ええーっとぉ……Where were you born?
伊東:Oh,Kyoto prefecture.But two weeks only.My mother lives there...
A:えー振っといて恐縮ですが、日本語でお願いしてよろしいでしょうか?w
伊東:あっはい。 京都です。でもそれは、母の実家が京都にあって、実家に戻って出産しただけなんですね。なので2週間しかいなかったので、そこが出身と言われると微妙かなと。その後千葉に何年かいた後、東京が長いです。父が仙台で会社をやっていたり……
A:「故郷」と言われて浮かぶのは東京ですか?
伊東:東京になっちゃうかな、一番長かったですし。でも小学校が千葉、中学校が岡山、高校は東京、大学は慶応なんで神奈川、自衛隊に入ると二年ごとに転勤して全国区と。さて私の出身はどこでしょー?
A:あっちゃこっちゃですねぇw どんなお子さんでしたか?昔から新しい技術とかに興味がありました?
伊東:そうですよぉ、大好きでした。実験とかも。子供の頃にやった一番変な記憶が、箱の中に光を閉じ込められないかなとか。
A:?
伊東:こぅ、日なたで小さな箱を日差しに向けて開いて、パっと閉めて押入れに入って、開いたら光が出てこないかなとか。
A:なんて初々しぃw
伊東:あと小学校で電磁石って習ったときに 「コイルに電気を流して磁石になるなら、コイルに磁石を当てたら電気って流れるのかな」って実験しました。
A:電磁誘導を自分で思いついたんだ!
伊東:でも残念ながら、磁石を動かしてみるっていう知恵がなかったので、豆電球をつなげて磁石をあてがうだけしかしなかったんです。あれで磁石を動かしてたら、何か発見があったかもしれませんね。
A:歴史が変わったかもしれませんねぇ。
伊東:あと中学生くらいの時に、ドローン作りました。
A:Σ(o゚ω゚oノ)ノ
伊東:もちろん飛ばなかったですけどw 当時の技術では、乾電池でモーター回して浮くことは不可能でした。
A:大学は慶応とおっしゃってましたが、学部は?
伊東:工学部ですね。
A:もう理系一本の人生ですか。
伊東:でも高校の時に、進路は理系か文系か決めかねてたんです。高校の成績が、現国で1位だったり数学で1位だったりブレてたんで
A:ブレ????
伊東:まあどっちでもいいから、模試の結果で決めようと思ったら、ど真ん中になってまして
A:ドマ?????
伊東:でまぁ、なんとなく理系に行っちゃったんですよね。
A:へ、へえぇ(驚)
伊東:医者を目指してもいたんですが、残念ながら医学部は受からなかったです。
A:あらぁー。 意外とゲーマーとも伺ってますが。
伊東:ゲームは大学の頃からずっとやってます。でもコンピュータゲームは、ウルティマとかウィザードリィとかを少しやっただけで、その後ボードゲームに移りました。
A:伊東さんの若い頃でいうと、インベーダー、パックマン時代?
伊東:はい、インベーダーはもう出会った瞬間「俺がやりたいのはこれだ!」って言って、いつも100円玉10個用意して、それを使い切ったらやめるという、リミットを課さないといけないほどでした。
前に映画で『PIXEL』ってやったじゃないですか?あれに出てきたゲームもやってたんで、懐かしいなぁって言いながら見ましたね。
A:ですかぁ。
伊東:ボードゲームでいうと、普通のボードゲームをやってたんですが、途中からウォーゲーム一本になりました。そのバリエーションとして、コンピュータを使うウォーゲームはいくつかやりました。
A:大●略?
伊東:あ、●戦略はやっちゃだめだと、自衛隊にいた頃は皆に言ってました。
A:Σ(o゚ω゚oノ)ノ
伊東:軍事的にデタラメなのでやるなと。少なくとも初期のものはね。
A:ま、まぁあれは、将棋やチェスみたいなものですしね?
伊東:そうです。ゲームとして面白いかは別です。
A:フォローありがとうございますw
ITセキュリティの世界に入っていくきっかけはあったんでしょうか?
伊東:セキュリティは、自衛隊に入って研究とか部隊とかずっと色々な仕事をしていて、最後の仕事というのが、システム防護隊というサイバー戦部隊の隊長だったんです。そのとき、これが僕のライフワークだと決めたんです。それまでもシステムはやっていましたが、セキュリティの道に行くとは思っていませんでした。でもシステム防護部隊の隊長をやった時、サイバーと安全保障が僕の一生の仕事だと思いました。
それで勉強をしたくて、自衛隊を辞めアメリカのシマンテックに行きました。それからはサイバーとミリタリーの部門や会社をずっと行き来してます。
(2へ続く)
シマンテック
アメリカ、カリフォルニアのソフトウェア会社。82年にAI研究を主目的として創業したが、ピーター・ノートン・コンピューティング社を買収し、ITセキュリティの総合企業として成長。
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