#14 言わないで、聞かせて。

 「映画5本観る」シリーズ2作目である。

ネタバレあり。注意してください

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 今回観たのは「グリーンブック」。2018年に公開された、なんか色々賞を獲得したアメリカの伝記映画だ。

時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで
無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転
手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも
演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行
ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。

(「グリーンブック」公式サイトより引用)​

以上にあらすじを載せておく。超簡単に内容を説明すると、

 「天才黒人ピアニストと白人用心棒の南部コンサートツアー」

である。黒人、白人と表現することがすでにちょっと問題だと思われるが、今回はあえてこの表現を用いることにする。映画のテーマが「人種差別」でであるからだ。


 映画を観た結論からいうと、超面白かった。本当に観てよかったと思った。


 まず本作のテーマであろう「人種差別」についてである。舞台は1962年のアメリカだ。現代日本を生きる自分にとっては想像もできないほどの人種差別、主に黒人差別が存在した時代。その様子がかなり全面に描かれているように感じた。恐らく、現実はこんな程度では済まされなかっただろうが。今まで僕がメディアを通して観てきた「人種差別」は、例えば同じ店に入れなかったり、トイレやホテルが別だったり。あるいは、理不尽な理由で警察に捕まったり。もちろん本作でもそれらは描かれていたが、しっかりと描写されていたと感じたのは「悪気の無さ」。差別している彼ら白人は、いたずらで人種差別をしているわけではない。心の底から、本気で「白人は黒人よりも優位な生き物である」と思っている。いや、それを意識すらしていない。「地球は丸い」とか「コーラを飲んだらゲップが出る」とか、そういうレベルだ。そういった「無意識」さというか、それを本作の描写からは感じられた。

 また、差別の多様性についても考えさせられた。例えば本作の主人公の一人、トニー・リップはイタリア系アメリカ人だ。肌の色で分けると「白人」に該当するであろう彼もまた、当時差別の激しいアメリカ南部ではイタ公、半分ニガーと罵られる。なにも黒人だけが差別されているわけではないのだ。観終わった後に本作の評価を見たら、どうやら「黒人を救済する白人」という描写が批判を受けているようだが、どちらかというと彼も差別を受ける側だ。個人的には、トニーをただの「白人」と見なすのは間違いではないかと思った。

 もう一つ驚いたのが、本作もう一人の主人公である天才黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーの立ち位置である。前情報やあらすじ、序盤を観た感じで「彼は白人から相当な迫害を受けている、あるいは受けるだろう」と想像するのは容易だが、実は彼は黒人からもある種の差別意識を持たれていた。白人からは「所詮黒人」として、そして黒人からは「高貴に暮らすはぐれ黒人」として、あらゆる人間から距離を置かれる人間であることが判明する。この「黒人による黒人差別」というのは正直想像していなかった。じゃあこの映画のテーマは「人種差別」ではなかったのか。白人黒人に限らない、もっと大きい括りでの「多様性」を描きたかったのかと、この描写を観て感じた。そういう意味では、ツアーを通して価値観を改め変えていく主人公2人の姿には救われた。非常に心温まるラストシーンだった。


 2つ目、超個人的な見どころかもしれないが「音楽」の面でも非常に楽しめた。1960年代アメリカの音楽はリトル・リチャードを始めとするロックンロール・R/B・ソウルミュージックの時代である。個人的に超ドストライク。本作の始まりの舞台、ニューヨークのナイトクラブ「コパカバーナ」はサム・クックのライブ盤で知ってるから驚いた(しかもトニーがその後コパの支配人(?)になったと後から知ってびっくり)。作中の挿入歌にも、前述のリトル・リチャードやサム・クック、”クイーンオブソウル”アレサ・フランクリンやチャビー・チェッカーなど錚々たるメンツの曲が挿入されていて、より本作の舞台に没入できた。

 また、クラシック音楽を主とするドクター・シャーリーは最初これらの音楽を知らない(これらは当時アメリカで大流行、知らない人はいないレベル、のはずなのだが)のだが、車内のラジオで聴くうちにこの「大衆音楽」に興味を持ち始めていく。しまいには終盤に訪れた黒人のためのブルースクラブ「オレンジバード」で、ブルースに合わせてアドリブ演奏まで披露してしまう。”原則として決まった型に忠実に、ミスは許されない”クラシックのピアニストである彼が、”決まっているのはコード進行だけ、あとはその場で0から音楽を創り上げる”即興音楽に身を委ねる姿は観ていて気持ちよかった。彼の価値観・心情の変化を、彼の音楽性をもって暗に表現しているのだろう。彼が演奏中に笑顔になったのは作中でこの時だけである。ちなみに、アドリブ演奏は簡単なようでメチャクチャ難しい。普通はハイどうぞで出来るような奏法ではないのだが、シャーリーは慣れない手つきとはいえちゃんと曲に馴染んでいる。すげえ。

 上につらつらと書いたが、オレンジバードのシーンは本作で1番好きなシーンだった。ウエイトレスの「言わないで、聞かせて」という名言が心に残っている。見た目や過去の栄光に囚われない、「彼」という人間を見ようとする姿勢が見て取れる素晴らしい言葉だと思った。


 以上、グリーンブックの感想である。いや本当に面白かった。あ、最後にもう一つ。映画を観てすごくアメリカに行きたくなった。FK(匿名性確保のためイニシャル)、もう社会人になるけど死ぬ気で休みとってアメリカまた行こうな。向こうでピザの1枚食い、一緒にやろうぜ。

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