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ひとりじゃないひとり旅の話👜

2011年の2月の終わりに、突然思い立って沖縄にひとり旅した。

あのときの私は普通じゃなかったと思う。

いろいろ無理していた。精神的に落ち込み、
体もだるく、不安になって涙をこぼしたりしていた。

綺麗な海を眺めたら、元気が出ると思った。
湘南生まれなので海は身近なものだったけれど、なるべく綺麗な方がよかったので、沖縄へ行ってみることにした。

2泊3日。1日目の夕方に那覇空港着。2日目に美ら海水族館などを回る半日のバスツアーだけで、あとは現地で沖縄音楽でも聴こうという、なんともアバウトな計画。
思考力もなく、なにをみても悲しい、みたいな変な状態だったので、それ以上考えられなかった。あまりに辛そうだったからか、綺麗な海が見たい、と少し楽しそうにしている私を、家族は止めなかった。

沖縄1日目🛫

那覇のロータリーに着いてまず目に入ったのはメンタルクリニックの看板だった。
結構たくさん。沖縄といえば癒し、という都会の人間の浅はかな考えを覆されたようだった。
本土に押し付けられたさまざまな問題に、心を痛める人が多いのだろうか、と思った。

国際通りをぶらついて、アクセサリーの店を覗くと、地元の店員さんが声をかけてきた。
「お姉さんは、ひとり?東京からですか?」
そうだと応えると、少し怪訝そうな顔。

「、、、どうしてひとりで来ようと思ったんですか?」
うまく応えられない代わりに、「音楽を聴きにこれからコザ・ミュージックタウンに行く」と告げると、「ひとりでは危険なところもあるから、気をつけてね」と心配してくれた。

私が普通じゃない様子を感じ取ったんだろうか?
単に女ひとりは目立つから、忠告してくれたのかな?

疲れたのもあって、結局その日は遊びにゆかず、ホテルで休んだ。初日の晩餐は、なぜかソーキそばのカップ麺と、オリオンビールになってしまった(笑)やれやれ。

沖縄2日目🦈

旅らしい唯一のイベントの朝、集合して観光バスに乗り込む。女のコばかりのいくつかのグループとひと組のカップル。わいわいがやがや。
君たちには沖縄ひとりたびなんか永久にできないだろう、と心の中で毒づいて寂しさを紛らわす。
途中の食堂でお昼を頂いていると、おかっぱ頭の、50代後半とおぼしき女性が話しかけてきた。この方もひとり旅だという。なんとなく話すうちに、なんとなくその後もともに行動することに。

なかなか、個性的なお方。
美ら海水族館でサメを眺めていると、
「ここはもういいでしょ?お土産お土産!」
と腕をひっぱられた。いやいやサメ観たいよw

ふだん見たこともないようなエメラルドの海と、真っ白な砂浜を見ていたら、
またその御婦人が隣に座った。

海を見に来たのよ。
ひとり海の色に浸っていたかったのに。。。

その方は、世界情勢を語りだした。
恵まれない子どもたちへの思いを熱く語ったそのとき、唐突に立ち上がる。

「あの子、ワンピースがめくれてパンツ見えちゃうじゃない!」と、渚ではしゃぐ見えそうで見えない娘のところへ走っていき、注意していた。

海が見たかったのよ、ひとりで(笑)

それでもふたりで撮った写真を送りたいからと、連絡先を交換した。帰りがけに大きく手をふる彼女を、恥ずかしいような、嬉しいような、ちょっと寂しいような気持ちで見送った。

その夜は念願のライブハウスで音楽を聴いた。客は私とおじさん2人だけ。バンドの人がご飯を食べていけ、といって、沖縄風おでんを振る舞ってくれた。おじさんの奢り。

戦争の歴史と、基地問題、そして安室奈美恵は私たちが育てたんだよ、という、沖縄県民みんながいいそうな事を話してくれた。

夜9時に始まった宴会は、夜中の3時まで続いた
。私のパワーは充電されるどころか、放電しっぱなしでついにゼロ。

別れ際に、バンドマスターの女性が、
「半年後にまた遊びにおいで。それまで元気でね」といってくれた。

やはり、なにか危ない空気を感じ取ったのだろうか?


沖縄3日目🌺

濃いメンバーとともに味わってきた旅も最終日。ぜひ足を運ぼうと考えていた、ひめゆり平和祈念資料館へ市バスで向かう。

市バスは、当たり前だが地元の方しかいない。
なんとなく、見られているような気配を感じていると、おばさんが話しかけてきた。片方の鼻から白い毛が一本出ていた。
(ごめんなさい、あまりに印象深くて)

「私はね、赤坂郵便局で働いたことがあるんですよ」と、道々東京に住んでいたときのことや今は糸満市役所で働いていることを楽しく話してくれた。

バスはどんどん糸満市を進む。
乗客は次々と降りてゆき、御婦人もついに降りていった。
「気をつけてね」

ついに私一人になったバスで、私は道の両側のススキ野原(だったかな)を見ながら、完全に心細くなった。

ついに、ひめゆり着。

バスを降りるとき、運転手さんにまで
「気をつけてね」といわれ、なんだか自分が異世界に迷い込んでゆくような感じがした。

資料館はとても立派な建物だった。
入口付近にあるひめゆりの塔に献花した後、
いざ資料館へ。
実寸代の防空壕のオブジェの前で語り部のお話を聴きながら、たくさんの資料を読んだ。
館内にはいろいろなタイプの若者がいたが、
誰一人おしゃべりせず、みんな真面目だった。

最後にアンケートを書いたあと、建物の外に出ると、小さなコテージがあった。
緊張感をほぐそうとベンチに座り、ハイビスカスを眺めていたら、不思議となにか少し、力が湧いたような気がした。

なにひとつ決めず、ただ海を眺めるはずだった沖縄ひとり旅が、とても貴重な出会いの旅に変わった。いろんな人が私を気遣ってくれたことに感謝している。

「一人ぼっちだったら、どうなっていただろうか?」

戦争の犠牲となった方々への哀悼の気持ちを胸に東京へ帰って数日後、東日本大震災が起きた。

この10年、本当にいろいろな事があった。時代は大きく変わったし、私も多少打たれ強くなった。少しだけ、大人になれたのだろうか。

旅の初日に撮った写真には、今よりナイーブな私と、意外とこれまたナイーブな、かの御婦人の笑顔がはじけている。バックには沖縄の空と海がこのうえなく青く、青くバエている。

青すぎる空と海

出会えた皆さん、ありがとうございました!

✿おわり✿

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