新型コロナウイルスを巡るドイツ留学中の状況について

半年間ドイツで生活する中で、「自分はアジア人として見られている」と感じることはありました。例えば、私が「アジア人だから」「日本人だから」という理由で近づいてくる男性はいました。トラブルも経験しましたが、そのおかげで自分がどうすればいいかを学び、そういった人たちは避けようと思えば避けられるものでした。したがって、はっきりとしたヘイトや敵意を感じたことはありませんでした。

しかし、新型コロナウイルス - COVID-19が流行りだしてから、状況は変わりました。

2月の頭ごろ、中国で新型コロナウイルスが深刻化し始めた頃のことです。私と韓国人の友達が電車に乗っている時に、近くの男性グループが私たちの方を見て、「コロナウイルス」「中国人」という会話をしているのが聞こえました。また別の日、バスに乗った時に、私たちの向かいに座っていた女性が私たちの顔を見るなり別の席へ移動しました。人々が、私たちがアジア人であることと、コロナウイルスを結びつけているのだろうと感じたのはこの時からです。

3月に入り、ヨーロッパでも感染が拡大してきました。3月2日、私の住んでいる街でも感染の疑いの人が確認され、隔離されたという報道がありました。その頃から、風当たりが強くなってきたように感じています。3月2日からの1週間で、私がこれまでの6ヶ月の滞在で経験してこなかったようなヘイトに何度か遭遇しました。

まず2日、月曜日。私が電車に乗っていたときのことでした。途中で乗車してきた若者が、電車に乗った途端に「コロナ!!!」と叫びました。衝撃を受けたと同時に、もし彼らに電車から降りろと言われたらどうしよう…というような不安が襲ってきました。幸い彼らは私たちより先に降り、直接的な接触はありませんでしたが、彼らが降りるまでは気が気ではありませんでした。

そして5日、木曜日のことです。私がスーパーでの買い物を済ませ、列に並ぼうとした時でした。私の前には中学生か高校生くらいの3人組の女子がいました。先頭に白人の女の子、その後ろにヒジャブを被った中東系の女の子とアフリカ系の女の子という位置関係です。私が列に並んだ途端に、後ろに並んでいた二人が先頭の女の子に前に進むように促したのです。汚いものから避けるような態度でした。その後も私の方を何回か見た後、クスクスと笑っていました。「中国人」という単語も聞こえてきました。今まで6ヶ月生活してきて、こう言った扱いをされたことは一度もなく、このような「嫌がらせ」は初めてでした。

この出来事があまりにも悲しく、インスタグラムやフェイスブックに投稿をしたところ、多くの方から温かいメッセージをいただき、気にしないようにしようと思っていた矢先の土曜日・日曜日に、さらに衝撃的な出来事が起こりました。
私がバスを待っていた時のことです。アフリカ系の小学生くらいの女の子が私に近づき、手を差し出してきました。私はイヤフォンをしていたため、彼女が何を言っているのかがわからず首を横に振っていました。すると突然彼女が「コロナウイルス、コロナウイルス」と言って立ち去っていきました。一瞬何が起きたかわからず、硬直してしまい、再び彼女の方を見ると、また私の方を振り向いて「コロナウイルス、コロナウイルス」と言いながら歩いて行きました。こんなにもはっきりとした敵意を、小学生くらいの小さい子に向けられ、動揺と共に深い悲しみに襲われました。
そして次の日、日曜日。18時ごろ一人で外を歩いていると、前から歩いてきたアフリカ系の男性に、通りすがりに大きな声で怒鳴られました。このときはただただ恐怖しかありませんでした。
私の韓国人の友人も、道を歩いているときに、中指を立てられたり、怒鳴られたりしたことがあるといっていました。私たちアジア人、特に東アジア人に対しての風当たりは非常に強くなっていっているのが現状です。

報道にもあるように、ベルリンで中国人の女性が暴行を受けた事件や、イギリスで中国人男性が暴行を受けた事件など、実際に身体的な被害を受けている方もいます。私も、今は言葉や態度での嫌がらせで済んでいますが、これがいつか物理的な暴力として現れるのではないかと不安で仕方がありません。あの男性が、私に対して殴りかかってくることだって考えられなくはない状況だと感じています。

そして、不思議なことに、私に対してそうしたヘイトを向けてきたうち、ほとんどの人はドイツにおけるマイノリティ-人種で言わせていただくと、いわゆる「白人」ではありませんでした。これは、あくまでも私の推測に過ぎないのですが、彼らもまたマイノリティとして何かしらの難しさを抱えていたり、ヘイトを向けられた過去があったりするのではないかと考えました。そうした経験があるからこそ、「コロナウイルス」を利用し、自分が受けてきたようなヘイトを、また別のマイノリティであるアジア人に向けているのが現状なのではないかと考えています。もちろん全てのマイノリティの方がそうだといっているわけではありません。

また、小学生や中学生など、若い世代が「ヘイト」を故意に向けているかどうかはわかりません。何も知らず、面白がっての行動である可能性もあります。だからこそ問題なのです。冗談半分で起こした行動が、人を傷付け、憎しみを生むことも考えられるのです。私に「コロナウイルス」といってきたあの少女は、少なくとも冗談半分ではなく、明らかに私に敵意を持った眼差しを向けてきました。考えてみましょう。中国人の親を持つ小学生が、クラスメイトに「コロナウイルス!」とからかわれ続けてしまったら、それはいずれ大きなヘイトを生む可能性もあります。今の状況は、ヘイトが別のヘイトを生んでいる状況であり、それは多くの場合は根深い問題で、簡単に解決できるものではないと私は感じています。

誰でも病気は怖いですし、病気の疑いを持つ人から距離を取りたいと思うことは至って自然なことだと思います。今思うと、感染が流行りだした頃に私から距離を取った人たちの行動も、悲しいことに理解はできます。私はドイツ語は話せませんし、彼らも見ただけでは、私がドイツに半年以上住んでいる学生なのか、ただの観光客なのかなんてわかるはずもないのです。しかし、あまりにも行きすぎたアジア人の締め出しや、理不尽な処置などが、差別意識を生むきっかけにもなっているのではないかと思います。イタリアの音楽院では、渡航歴に関わらず、全ての東洋人に授業を参加させない措置を取ったそうです。学内の医師の診察を受け、問題のなかった学生だけが登校を再開できるそうですが、この措置は予防のための正当な行為であると言えるでしょうか。

この状況下で私ができることは、まず第一に自分の身を守ることです。先ほども述べましたように、実際に暴行事件も発生しています。例えば、夜は一人で出歩かないようにする。治安が悪いと言われている場所には近寄らないなど、狙われやすい状況を減らすことが重要だと感じました。

第二に、こうしたことを発信して状況を多くの人に知ってもらうことです。ヘイトに対して声を上げて、立ち向かってくれる人が一人でも増えたら心強いですし、もしかしたら、良い方向に持っていく方法を見つけられるかもしれません。また、自分と同じ状況を経験している人たちとも、対策を一緒に考えることができるのではないかと思います。

第三に、ウイルス自身をしっかりと予防することです。連日遭遇した出来事や、アジア人の差別のニュースの報道などを聞くと、どうしても気が滅入ってしまいますが、心が弱ると体も弱ってしまいます。その出来事だけにとらわれず、自分を支えてくれる周りの多くの人たちの声を忘れずに気を強く持っていかなければいけないと感じています。

正直、ここ数日生活をしていて、前よりは居心地が悪く感じています。バスや電車に乗るときや、道を歩いているときも、人の目を気にするようになってしまっています。しかし、私が傷つき、そう言った少数の声に怯えながら過ごすことで、そうしたヘイトを向けてくる人たちが喜ぶのも事実です。状況が良くなることはあまり期待していません。それよりもきっと私がこの状況に慣れることの方が早いと思っています。それでも、こうして差別を受けていることも、ある意味では日本では絶対に考えられない貴重な経験であることは間違いないです。残りの4ヶ月、くじけることなく頑張ろうという意気込みを忘れることなく、ただ、本気で身の危険を感じた時は柔軟に考えるようにしようと思っています。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


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