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トイレとアクセシブルデザイン

今日はみんなが毎日使う場所、トイレのアクセシビリティについてです。公共トイレにもJISやISOの規格があります。

トイレで戸惑う

行き慣れない大型ショッピングセンターでトイレに入ったものの、
「あれっ、流すのは? ボタン? レバー? 」
「どこにあるの? 右? 左?  後ろ?」
などと戸惑った経験は多くのかたがしているだろう。洗浄方法には、ボタン式やレバー式以外にもセンサーに手をかざすタイプもあるし、自動洗浄で立ち上がれば水が流れるタイプもある。

またよく見かけるのは、「非常呼出し」ボタンに添えられた注意書だ。
「押すと警備員が参ります」といった類の言葉が添えられていて、時には後から追加したようなカバーが付けられていることがある。

あまりにも注意書きが多岐にわたり、裏事情が忍ばれるなと思っていたらさまざまな非常呼び出しボタンの注意書きを紹介した記事があった。(さすがデイリーポータルZさん! ふざけているようで意外とテーマが真面目。)

2014年10月13日 公衆トイレの非常呼出ボタンに見る葛藤 - デイリーポータルZ

幸いお世話になったことがない非常用ボタンだが、あの位置はどうなのだろうか。もし万が一具合が悪くなり床に倒れ込んだら手が届くのだろうか。

— そんな不便や不安を解消するために、公共トイレの洗浄ボタンの配置には国際規格がある。

もちろん視覚障害者も困ってる

さてトイレの流し方がさまざまゆえに困っているのは視覚障害者も同じ。経済産業省によると

一般社団法人日本レストルーム工業会が2015年6月に実施した調査では、20名中7名(ほぼ三人に一人)の視覚障害者が、実際に「流す」ボタンと間違えて「非常呼出し」ボタンを押してしまった経験をしている

とのこと。

便器にレバーが付いていればこれで水洗ができると経験的に判るが、ボタンは複数並んでいるもの、また流す用ボタンだけが離れているものと一言でボタン式と言われても瞬時にこれと判断するのが難しい。視覚障害者のみならず、お子さんやご年配者など迷うことも多かろう。

規格のポイント

もともと日本工業規格(JIS)の規格であったこのトイレの「アクセシブルデザイン」アイデアは、日本提案で国際標準化機構(ISO)の規格として承認された。

因みにウェブアクセシビリティの場合は、国際基準である「WCAG2.0」と日本国内の工業規格である「JIS X 8341-3」がある。(WCAG2.0は近々更改予定)
日本工業規格JIS X 8341-3は正式には
「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」
という。規格番号は「やさしい(8341)」と覚えやすい。2004年が最初で、2011年に更改されその後2016年が最新版だ。
(ウェブアクセシビリティを訴えていきたい自分としては、今日覚えてほしいポイントのひとつはここ!!)

さて、トイレの「アクセシブルデザイン」の概要は次の通りとなっている。

(1)ペーパーホルダー、流すボタン、非常呼出しボタンは便器の左右どちらかの壁にまとめて設置すること
(2)流すボタンは、(下図のように)ペーパーホルダーの真上に設置し,非常呼出しボタンは流すボタンと同じ高さで便器後方に設置すること
(3)非常呼出しボタンは,個室の中で倒れてしまった姿勢から操作できる位置にも設置すること
(4)ボタン類の色使いには、見つけやすいよう周囲とのコントラストに配慮し、非常呼出しボタンには(赤色等)その役割が伝わりやすい色を採用すること

冒頭で私が懸念していた非常呼び出しボタンの位置は(3)の通り。確かに最近、新しいビルでトイレに行くと床近くに設置されている非常呼び出しボタンを見かけるようになった。床に近いから、誤ってボタンを押す可能性は少なくなるだろう。また非常呼び出しボタンの下に紐がついているものもある。先にボールがついていて、力が入りにくくつかみにくい状態になっても引っかかりやすいだろう。

配置デザインも決まっている。(下図は経済産業省ウェブサイトより)

基本的にトイレットペーパーは壁から出っ張っていることが多く、手探りでも見つけやすいので、それを基準にボタン類の配置を決めたのだそうだ。

普及は徐々に、当面必要なのは合理的配慮

多くの多機能トイレではすでにJISにより配置デザインになっていたが、一般の公共トイレでも少しづつ広がっている。とは言うものの、従来の建物ではまだまだだ。ビルの規模によっては多機能トイレがなく、またあっても清掃や利用者がすでにいて、視覚障害者が一般のトイレを利用することもあるだろう。(実際、一般のトイレを利用しているかたが多い)

もし仮に視覚障害者をトイレに案内することになったら、どうしたら良いだろうか。

神奈川県横浜市青葉区を中心に活動している男性だけのボランティアグループ『ダンボ青葉』(今年の2018年3月で解散されたとのこと)で福祉教育担当をされていた方のウェブサイト内の『視覚障害者の誘導方法』ページに判りやすく説明があったので、引用させて頂く。

2.トイレへの誘導
外出先でのトイレの利用は視覚障害者にとって不自由なことの一つです。トイレに誘導し、必要ならば、便器の位置、カギの開閉方法、利用する向き、トイレットペーパーの位置、水洗の方法、手洗いの位置等を説明し、利用している時は外で待っていて下さい。視覚障害者が異性の場合は、そのトイレを利用する同性の方に誘導を依頼して下さい。

こちらのページはこういった日常生活の誘導以外にも、街中や電車の乗り降り、また誘導していないときでも街中で視覚障害者を見かけた時にどうお声がけしたらよいかといったアドバイスが詰まっているので、一読されることをおすすめする。

視覚障害者の誘導方法

海外からの観光客にもやさしいトイレ

普段の生活の中で利用している我々にとっては慣れた日本のトイレも、来日した外国人からみると判らないことも多いようだ。ボタン部分も日本語で書かれていることが多い

次の動画"How to survive in Japanese toilets"は2016年にYoutubeに公開されたものだ。『日本のトイレで生き残る方法』だなんて、ちょっと大袈裟?と思ってしまうが、なるほど、こういったことが戸惑いのもとなのか!と気づかせてくれる。動画投稿者は日本のハイテク技術が詰まったものとして日本のトイレを好意的に受け止め、親切に使い方をレクチャーしているのだけれど判り難いアイテムなのだろうなと申し訳なくさえ思える。

2014 年 にTOTOが「日本の公共トイレで困ったことは?」と聞いたアンケートがある。回答結果1位から3位までは以下の通りだ。

・和式トイレの使い方がわからなかった 26.7%
・操作ボタンの役割がわからなかった 25.7%
・温水洗浄便座の操作方法がわからなかった 18.5%
(n=600 複数回答)

となっている。これに続いて上位には

・日本語表示しかなかった 15.7%
・用をたした後の洗浄方法がわからなかった 14.7%

が含まれている。
因みにマラソン大会などに参加したことがあるかたは、大会運営者が用意している臨時トイレの殆どが和式トイレだったと思う。最近では洋式もあるが、今年の東京マラソンも見たところ洋式より断然和式が多かった。
東京マラソンに参加した外国人ランナーは、2018年の今年は6,385人。マラソン大会名物の長い列体験もさることながら、臨時トイレで和式を見た時どう思っただろうか。

逆に私自身が海外マラソンに出場したとき、ものすごく当然だけど全てが洋式で、しかも大きなトレーラーの中に個室がズラッと並んでいるのを見た時は物珍しくて、思わず写真を撮ろうかと思った。(思いとどまった)

トイレ操作パネルの標準ピクトグラム

日本レストルーム工業会では2017年1月にトイレ操作パネルの標準ピクトグラムを策定した。

国内主要メーカー9 社の 2017 年度以降の新製品より順次採用していくとのこと。また、今年の2月には国際規格にも登録されたこど発表された。メーカー毎に違うピクトグラムが使われていたものが、今後統一されていくだろう。

ただ、これも急に変わるものではない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックで外国人観光客がトイレで戸惑っていたら、どうアドバイスをしたらよいだろうか。

以上、今日はアクセシビリティつながりで、皆が毎日使うトイレについて紹介しました。

最後にオマケで、下の写真はニュージーランド旅行中に撮影したトイレ。
洗浄タンクの上にボタンがついているのが見えるでしょうか。
このボタン、写真では1つに見えますが、左右もしくは前後2つに分かれています。片側を押すとボタン1つが沈み込み日本でいう「小」、反対側を押すとボタン2つ沈み込み「大」というもの。
ボタンの形状は違えど、ニュージーランドで見かけるものは殆どこのタイプが多いです。たまにボタン1つのものもありますが、違う位置にあったことは自分の経験ではないです。

参考:
 公共トイレの洗浄ボタン等の配置に関する国際規格が発行されました(経済産業省)
温水洗浄便座のピクトグラム(図記号)が国際規格に登録されました~日本発のわかりやすいトイレ操作パネルを実現~(経済産業省)

(了)

ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド アロータウン ©moya

最後までご覧いただきありがとうございます! 現在放送大学でPDFのアクセシビリティを卒業研究中。noteはそのメモを兼ねてます。ヘッダー写真はnzで私が撮影しました。 【ご寄付のお願い】有料noteの売上やサポートはnzクライストチャーチ地震の復興支援に使わせて頂いております。