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【読書記録】Spring

お盆休み帰省。
恩田陸さんのSpring が、当たり前のように実家にあったので、読みました。
感性が近い家族という存在、ありがとう。
そして一通り読み終わったけど、これは買います。

実在しない人間のファンになってしまう。
どの演目も観にいきたい。どの人にも会ってみたい。どこに行けば観られますか。

そんなにもフォーカスされなかった人の踊りさえ、ちゃんと観てみたくなる。
そもそも存在していないのに。
バレエ、ちゃんと鑑賞したことないのに。

私の知らぬ固有名詞がバンバン出てくるところも、その世界を説明的にしない、親しみのない人のところまで中途半端に落とさない、それでいて置いてきぼりにしない。むしろ、その世界の気高さを、溢れ出る色気を、皆の恍惚を、才能の残酷さを、感じさせてくれる、凄み。
その”文化圏”と呼んでも良いような、界隈で使われている言葉、当たり前、をベースに世界を描くことで、美しさが、気高さが、艶やかさが、読むものの中で昇華される感じ。そしてそこに、出てくる人達のファンになってしまうくらいの親しみやすさが同居する。

私はバレエの深い世界に入ったことはなく、そこにいる人たちのこともあんまり知らない。使われる音楽に親しみもなければ、バレエの有名な演目も、バレエで使われるようなストーリーも、全然教養として持っていない。ちょっと敷居の高さを感じる対象、バレエ。それなのに、引き込まれ、吸い込まれ、飲み込まれる。

恵まれている、与えられた、者たちの物語。自分とは異なるそれらへの強烈な羨望、畏怖。と同時に、こんな張り詰めた世界では生きていけない、そういう、普通であることへの安堵。

それこそ、戦慄。
私はこの物語を、きちんと心にしまって、一緒に生きていきたい。

運命というものを信じる気持ちにもなる。それが生み出す負の部分も含めた上で。そして私は、与えられる側、奪われる側、どっちだろう、とか、いや違う、全ての人が平等に与えられ、奪われているのだ、とか、なんかよく分からない、取り留めのないことを思う。表現者、というものへの強烈な憧れと諦め。

電車での、そこそこ長い移動を一瞬にしてくれました。一瞬の中の永遠。うっとりとしたため息が出る、という、たまに目にする描写は、今の私のものかもしれない。言葉にならない。

こういう世界って、当たり前に厳しくて、いろんな葛藤があるはず。でもたまに、それをひょいと飛び越えて、楽しんでしまう人がいて、そういう人たちは私たちとは違う苦悩を抱えてたりする。違うものが見えている人たち。
Giftedという言葉に包括された美しさ、輝き、圧、畏れ、絶望、全て。バレエという、型があるからこそ、その積み重ねの結果でこそ自由になれる、その感覚。その感覚を味わえるのは、きっとほんの一握りの人間であること。でもこうして、そのお裾分けをもらっていること。

興奮したままに書き連ねてよくわからない感想になってますが、お許しください。
蜜蜂と遠雷の時もそうでしたが、ほんとうに、吸い込まれる。
これが読める世界に生まれてきてよかったです。
ありがとうございます。

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