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通り雨

ああ、全て思い出せる。こんなに淀んだ空気の日には、あの日の惨めで孤独な自分も、困り顔の目の奥に見える私を憐れむ貴方の顔も、痛みを痛感しながらそれでも好きだと縋ってしまう幼い私の気持ちも、全部が狭い空間で行き場をなくしてくゆる煙草の煙のように、私の頭にずっと佇んでいる。

もうすぐここには雨が降るだろう。そうしたらこの鬱憤も洗い流されるだろうか。雨が止んで太陽が地を照らしたら、この憂鬱も蒸発して消えてくれるのだろうか。貴方はもういないというのに、私の世界には貴方がいる。もう幾度となく想像をしたあの日の貴方を思い出すほど貴方は色褪せてしまうのに、私は貴方を創ってしまう。そして私は、褪せた貴方と眠りにつく。

貴方と過ごしたこの街は、今鼓動を止めてしまう。私が撮った街の心電図も、終わりがきて、古ぼけて、過去のものへと変わってしまった。貴方も街も、死んでしまった。責任なんて感じない。私はそれを事象として飲み込み、受け入れる。思い出す度、貴方も街も生きられるように、滲ませながら私は手を差し伸べる。季節の雨がやってくる。私ももう死んでしまう。新しい私が生まれていく。ように。

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