アイソレート・マイセルフ

「モン ロワイヤルまで歩いた。
僕はわからない。ふとした時にやって来ては、たちまち僕を圧倒するこの憂鬱に対処する方法が。これほど虚な気持ちになることは滅多にないけれど、むかしはよく経験していた、これは今朝、薬を飲み忘れたせいなんだ。外にでて、散歩したり運動したりすることで気分が良くなるようにいつも頑張ってる。これはただ、僕がハッピーになるまでの話ってだけ。あとこの動画は、今の僕がどう感じているかの視覚的再現だよ」

それは、2本のビール瓶の隙間を通り抜けて何もない壁をアップしていくだけの動画だった。焦点の合っていない空虚な映像だ。

「ふーん、完璧な視覚再現だね。わたしにはわかるよ。焦点が合わない時、わたしの脳みそはどっかのビーチか宇宙の果てまでよく旅をしているから。そういうとき、あなたなら何を考える?」

「僕はわからない。僕が何を感じているのかすらよくわからない。ただ自分の魂がビリビリに破れていくのを感じてる。

でも今は、さっきまでと違う音楽を聴いてる。アップテンポで、よりパワフルで開放的な音楽。音楽が僕のお気に入りの薬だよ」

そう言って、わざとおちゃらけた顔をして笑ったサミュエルの、大きなブラウンの瞳に比べると妙に小さな歯、ものすごい毛量の栗色のくせ毛、つんとした鼻を際立たせる目の下のくま、骨ばった骨格の陰影、疲れ果てているような表情が忘れられない。

彼がわたしに送ってくれた曲を聴いてみた。気づいたら六周くらいリピートしていた。気づいたら二粒だけ涙をこぼしていた。特別な友情も恋心もないのに、妙に気になっていた理由がはっきりと分かった瞬間だった。わたしは、絶望のなかで穏やかに溺れている人を見つけるのが得意だ。わたしたちの想像する天国は、あまりにも地獄に似ている。

「ひとつだけお願いしてもいい?」

「うん、聞くよ」

「綺麗な星空が見たい。できれば、ひとりぼっちじゃない公園で」

「ぜひとも」


わたしたちは金曜日の夜に、メゾンヌーヴ・パークで星を見ることになった。最近は雨続きで、夜には気温がマイナスになる。ただきっと、金曜日の夜にわたしは豪快な運転のバスに揺られて、だだっ広い公園をすたすた歩いて、芝生のうえでなりふり構わず寝そべって、鼻先の感覚を鈍らせながら、とても冷たく澄んだ11月の空気を吸うのだろう。日に日に色を失っていくメープルの木々に囲まれて。

肌の色、髪質、目の色、骨格など体じゅうのすべてや、国籍、カルチャー、宗教など、音楽の趣味以外すべてが違うわたしたちだけど、同じ場所で同じ空気を吸うのだ。もしかしたら、同じような穏やかな気持ちで。

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