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ダイバーを読む: 沼没入の流儀

ケーブダイバーへの関心で始まり、テクニカルダイバーや黎明期ダイバーにも興味が湧き、だったらとフリーダイビングも押さえてとしていたら、地上の洞窟や考古学や宇宙にも繋がり、一向に読書が止まらない沼だった。

関西のダイビングサークル(ダイバーズ・ハイ)にあるダイバー視点の幅広い海のブックレビューを参考にスタートした。漫画も結構あるので読みたいところだが、ストレートなダイビングものは無いっぽい。

上のリンク先で水中洞窟読書をまとめたので、ここではそれ以外を一気にまとめてしまいたい。なにか読み次第追加していく(圓田浩二「ダイビングのエスノグラフィー」もシラスで知り購入している)。

ウェブでは、ダイビングスクールなみよいくじら代表の関藤博史Blogせきちゅうの泉)のテックカテゴリや、ダイビング指導団体SDI TDI ERDI JAPAN代表の加藤 大典 (Daisuke Kato)のダイビングブログも面白いので読んでいる。

基本的にジャンル順の年代順で列挙するが、例外として次に1冊。


須賀次郎「ニッポン潜水グラフィティ」 '2014

ニッポン潜水グラフィティ

日本ダイビング黎明期ど真ん中から生き続ける50-80年代の回想録。これだけの記述が未来へ残るのは凄い。シーラカンスプロジェクト記事)の田中光嘉(1961-2017 / だいこんダイバー参照)を検索していて、Blog〈どこまでも潜るの書き手は誰だろうと気になって存在を知る。感動する。著書も業績も多数。些細な話だが川口浩探検隊の水中撮影エピソードなんかも少し述べられる。本書は月刊ダイバー連載の書籍化だが、マリンダイビング創刊者舘石昭も普通に登場する良い本。日本ダイビング史がここにある。

須賀次郎+浅見国治「アクアラング潜水」'1966

アクアラング潜水

1966年。日本初のスクーバダイビング教本。まさに黎明期なので、今と違う点は、当時流行っていたスピアーフィッシング(狩猟)の項があったり、ダイビングコンピューター(ダイコン)が無かったり、タンク/コンプレッサーの使用法/手入れが基礎情報として並んでいる辺り。減圧表も分かりやすく解説。21世紀的なダイコン普及以前の記述でテックを理解するのにも良い。冒頭、クストーの海底居住実験と同時代だったり、マイヨールがスクイーズ問題を越えてない時代の記述だったりするのも面白い。

白井祥平「海中への旅」'1969 他

海中への旅

以前図書館で前半を読んでいたものを古本で購入。後半は北海道から沖縄までの地域別の海中旅行ガイド。当時の空気感が読めて興味深い。白井祥平の初海中記録本で、景観分類/日本旅行ガイドと読み応えあり。

白井祥平 / 海洋研究者の宇田道隆(右上カバーなし3冊)

須賀次郎の本から知ったその同時代人、海洋生物研究家白井祥平の初アクアラングからの半生「サンゴ礁探検」と、超絶ざっくりした「すばらしい海底の世界へ■海中公園をつくる」や、青少年向けも意識された文体や図版だが巨大で専門書な本「沖縄有毒害生物大事典」「有毒有害海中動物図鑑」。以下未読「ブクブク・プクプク海をゆく」はユルいタイトルのわりに水中公園から15年、深海調査ばかりで浅瀬調査が弱い現状を引き受けた内容。「秘境ニューギニアの旅」はストイックな報告書(良さげな)。参考:太平洋資源開発研究所の著作リスト

望月昇「海底の冒険野郎」'1975

海底の冒険野郎

黎明期ダイバーの1冊。館石昭も少し登場。瀬戸内海の戦艦陸奥といった沈船や、発電所海水取り、滝に沈んだ車調査、鮫からバラクーダ、ベトナムでのスピアフィッシング大会参加の顛末と、ダイバーの幅の広さを存分に知れる。まるでマジックリアリズムのような名著。この本を読んでから潜水士の仕事内容にも興味を抱いている。

舘石昭とマリンダイビング

舘石昭とマリンダイビング

ここまでにやたら名前が出てきたマリンダイビング創刊者舘石昭だが、ケーブダイバーの読書記「死の淵を潜る」 ‘1979 を紹介している。ここでは上の画像の本をざっと。「フォトエッセイ 地球は生きている」'1995 は、写真家40周年も兼ねての心地の良い作品的1冊になっている。初期舘石昭+文:村上龍の水中ヌードフォト「海のオリビア」「海の妖精」を目にしたい。

日本初ダイビング雑誌1969-2021「Marine Diving」50周年号(通算633号)'2019。特集記事は13ページ、本誌の歩みを年ごとにミニ紹介の時代変歴感。脱スピア後のフォトダイバー日本史でもある「月刊マリンダイビング」のNo.581(2014.9) 号を改めて全ページ見る。中性浮力特集が数十ページ続くわけでもなく、表紙にある国内外レジャーダイブスポットががっつり。若い子はワクワク眺めるだろうなーと何か思い返したら良い気分。紙ってデジタルじゃ無視する情報も面白い、何故だろう。別冊マリンダイビング「ダイバーハンドブック 海底散歩の実用百科」'1974 は、水中Xmasパーティーの仕方など、黎明期よりダイビングのイメージ操作が垢抜けつつも時代的香ばしさもあって、他に海中公園地図など、ちょっと所有したい感。

海底散歩の実用百科

他、2021年に倒産してしまった水中造形センターの本。「楽園の海シリーズ」は全7冊?「PHILIPPINES」はトラベルガイドもあってフィリピンに行きたくなる。ほぼ写真のみ「海と島の旅フォトシリーズ」は7まである?(上画像は、4.AUSTRALIA-グレートバリアリーフ / 5.GREECE)。

田原浩一「おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書」 ‘1997 / 
田原浩一「続 おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書」 ‘2002

お上手ダイバー養成新書

著者はむっちゃテックダイバー愛が深いけど、この本は40mより上の話。97年刊行のI、02年刊行のII-続-、この間に日本でテック指導が始まったりと変化があったっぽい。続では高圧障害の項や減圧ダイビング私見も。原理から丁寧かつラフに解説され、図解多くぎっしり詰まっていて、ここまで専門的な入門書は他にないと名高いだけに I+II の1冊で装丁変えて再刊してほしい。なんなら新著も出してほしい。
Explorer's Nest / Blog:  Beyond(2016-21) oceana (2012-)

清水玲子「ナマケモノのスキューバダイビング」 ‘1998

ナマケモノのスキューバダイビング

超初心者向けの体験エッセイ漫画。文系でも出来そう感すごいあって素晴らしいと思っている。キラキラ感が全然ないのも良い。ファンダイバー基礎情報や素朴な疑問Q&Aもあって親切。本来は耽美かつグロテスクモチーフのある漫画家のよう。興味深い。

池田知純「潜水の世界 -人はどこまで潜れるか-」'2002

潜水の世界

2022年の知床の件で飽和潜水が初耳で、朝日海洋開発(安倍淳)を検索するなかで見つけた。ダイバーの魅力である未踏極限領域に挑む医学と科学、技術それ自体の歴史、バイブル本。日本では、とその都度記されている。ある意味では、今後が語られる終章が最も面白い。

友成純一「ダイブマスター アジア太平洋を潜る」 ‘2002

ダイブマスター アジア太平洋を潜る

TH No.78(2019 アトリエサード)で友成純一が半生を語っていてとても面白く読んだのだが、とはいえそのときはマジで?ダイバーか!と思っていた。それが今や興味津々でダイビング情報を漁っている。最初、あとがきと本文10ページほどを読み、冒頭からインドネシアの生物相がくっきり変わるウォレス線(ウォルセア)のイギリス調査隊へ参加する話で始まり、表紙からは想像できない硬派体験記に面食らい購入。

20年前の本にアレだが、続巻「ダイブマスター○○を潜る」出版されてほしい(と今検索したら「バリ島裏町日記」などのエッセイが出ているらしい。ちなみに、官能小説シリーズの「南洋に燃える肌」は読み放題箇所だけ読んだけど、自分が求めている方向じゃないなと)。

1章インドネシア編では好短編1つを読了したような感慨を得て、日本唯一のダイビング文学では?と思う。

空が揺れているのか、船が揺れているのか…よく判らなくなってきたときには、もう眠りに落ちている。

2章フィリピン事情からファンダイブと角度の違う貴重な珊瑚の調査ダイビングCCC。情景がじっとりとリアルに伝わる描写が不思議だが、小説家は空想起点でリアルを立ち上げる技術が重要で、体験記の現実起点に甘んじない、そんな癖が出ているのかもと思う。

宿泊施設は、何せ"ホテル"という名が付いているくらいだから、コンクリートと木を使った大きくて立派な建物だった。

この何気ない描写から、昔出向いたタイなどの施設の持つ空気感ががっつりと脳裏に甦ってきた不思議。3章フィジーは地球温暖化等の珊瑚礁調査ボランティア体験記だが、4章タヒチは水深30m越えサメの群れや縦穴シャークホール潜降も。ガイドはいう〈ずっと君の目を見てたんだ、ぼくは。落ち着いて冷静だって見極めたから、行ったんだよ〉

高野弘「湖畔 -琵琶湖の楽しみ方-」 ‘2003

湖畔

自分は琵琶湖愛が深く、大沼芳幸「琵琶湖八珍」とともに購入したら著者がダイバーだったという出会い。末尾にある青山舎によるガイド(湖周一周ルートが面白い)的な本だと思ったら、フォトジャーナリストの写真エッセイを交えた内容で、海外の湖の体験との比較もありつつ自然に触れる眼差しが静かで良い本。鳥人間コンテストの話もあって、JUDFダイバーのレスキューサポート/鳥人間コンテスト2021レスキュー参加報告などを検索で読み、本書をきっかけに出向く。著者のホームページ

「世界のダイバーズ天国 DIVER'S HEAVEN」 '2007

世界のダイバーズ天国

久々の図書館でダイバー関連をチェック。パンデミックもあってダイビング雑誌がなくなってしまった。確かにインターネットがあれば情報は集められるしダイビング雑誌のマンネリ問題もあったかもしれないが、紙媒体の編集で俯瞰できる類のメディアが失われるのは不自由に思う。

赤木正和「だいこんダイバー!? Cカード取得後の必読書」 '2008

だいこんダイバー!?

IANTDインストラクターだった田中光嘉へのテックダイバーQ&Aを含む、減圧症とダイビングコンピュータについての1冊。スクーバダイビング後のフリーダイブはマイクロバブルスを既に抱えてる等の併せ情報や日本のチャンバーレポ等、ダイビングをする人は一度は読んでおいた方が良い本。

渋谷正信「海のいのちを守る」 ‘2014

海のいのちを守る

心にも思い方という技術がある。潜水士の仕事を知りたいと探して見つけた1冊だが、興味深くスピっていて良い。感謝や内観から全てが繋がる世界観、開発、環境保護と立体的にダイバーを知れる良書(データ系ではない)。奇跡のような特攻ペルシャ湾オイル調査の結果もすべてが繋がっているのだろう。震災復興ではお世話にもなっている。
渋谷正信氏に聞く脱炭素時代のダイバーの役割 1 / 2

雑誌「DIVER」 今こそエシカルダイバー宣言 '2020

DIVER

休刊前のNo.464(2020.11)号。パンデミックで察しと思いつつ、文化寄りダイビング異色雑誌から更に踏み込んだマイクロプラ問題を扱う誌面作り。環境問題視野の入り口。高砂雅美の脱プラスチック生活が印象的。テックダイブ検索でよくたどり着くのがこの雑誌「DIVER」のオフィシャルサイト。クールで好きだ。

ダイビングショップでのフリーペーパー関係 '2022

ダイバーになる気はないけどちょっと気楽なノリで潜りたくなってしまう情報群。ファンダイビングの範囲内だけでも結構沼要素あって面白い。

ケイビング関連

日本洞窟学会の洞窟関連書籍から「洞窟の世界」「素晴らしき地底の世界」「日本列島洞穴ガイド」「洞穴学ことはじめ」「CAVING ケイビング 入門とガイド」「カルスト その環境と人びとのかかわり」を図書館の書庫から。

ケーブダイバー調べ始めの頃はダイビング路線とケイビング路線のどっちが出発点かでダイビング器材の認識が違う点を理解していなかった。前者をケーブダイバー、後者をケイブダイバーと呼び方を変えたりする。前者は元々ダイバーだったのが水中洞窟にハマった人達を指すが、後者は洞窟探検の際に現れるサンプ(水溜り)を越えるためにダイビング器材を使用する。つまり、前者は一度潜れば歩く気がないが、後者はなるべく歩きたい感じ。

自分は登山(陸)の穴版ケイビングには興味がないので、深入りを慎重に避けている。

吉井良三「洞穴学ことはじめ」 '1968

冒頭で生涯の終末がいつ突然くるか分かったものではないから後世への遺言状気分で〈ここまでは私がやった。あとは〉という思いを語っていて、購入して読むのも良いなと。要所要所、図もある。未読。

加藤守「日本列島洞穴ガイド」 '1981

地図は洞窟所在地のみ。土地情報を知るのに良い方面のガイド本。

近藤純夫「ケイビング入門とガイド」 '1995

図解SRTなども丁寧。日本41洞窟ガイドがマップ付なので所有欲に響く。著者は様々な洞窟学会に所属、世界各地の洞窟調査を行ってきたケイバー。

吉田勝次「CAVE EXPLORER」 ‘2018

日本ケイビング協会設立者で、クレイジージャーニー出演の洞窟探検家。富士の洞窟が熱い。テキストの少ない写真集。画像右。

CAVE EXPLORER

深海から宇宙へ

スクーバダイバーは深海には行かない。最初はそれも理解していなかった。深海とは光の途絶える200m以深の海域で、確かにケーブダイビングのカリスマ、シェック・エクスリーは200mまで潜ったが、そんな白笛のごときクレイジーなダイバーはほとんどいない。深海を泳ぐダイバーは飽和潜水などで比喩的にいえばワープしているので、タンクとレギュレーターによる自力でその水域に辿り着いてはいないのだ。水深200m越えの深海情報はマクロで、ダイバーの視点に立つのはミクロだと分類しておく。

宇宙本はここには記さないが、研究的に繋がっている。ダイビングスーツが宇宙服開発と関連したり、深海本を読むと宇宙の話になっていく。

荒俣宏「水中の驚異」(ファンタスティック12) '1990

神秘学/博物学の巨匠荒俣宏は、水中への思いが強い点で重要だ。水中生物を初めて描こうとした画家たちは水をどう取り扱ったのか。本書は、水生無脊椎動物のグラフィックアートがカラー図版で収集され、西洋と東洋とで水への理解が違うことなども語られた良書。

沼津港深海水族館(シーラカンスミュージアム)パンフレット

沼津港深海水族館

情報を追う過程で深海にも興味は持ってしまうので、出向く。館内の充実ぶりをコンパクトにうまくまとめていて良い。2011年12月開館。沼津港では深海魚も食べた。

JAMSTEC Blue Earth編集委員会「はじめての海の科学」 '2008

はじめての海の科学

高井研の経歴にあるJAMSTECの本。写真図版多く、小学校の図書館にあってほしい。海と地球の情報誌 Blue Earth を確認。

地球科学研究倶楽部 編「深海がまるごとわかる本」 ‘2014 他

深海がまるごとわかる本

マグマオーシャン、海の成り立ちから深海区分、光が届かない高圧低温の説明、探査技術の歴史など、終盤は深海生物ファイルと写真も多くとてもイメージしやすい構成。死骸を食べる腐食性のダイオウグソクムシが飢餓に強く5年絶食とか凄まじい。海洋の棚から「深海、もうひとつの宇宙」「深海 - 極限の世界」「日本の深海」「ここまでわかった! 深海の謎」あと「琵琶湖は呼吸する」など、ざっと眺める。

高井研「生命の起源はどこまでわかったか」'2018

生命の起源はどこまでわかったか

マラカム-ショック予想〈熱水を食べる生物の種類や量は熱水から得られるエネルギー量によって理論的に決まっている〉のような式が、40億年前の地球も、宇宙も、解きほどいていく。なんという。

佐々木ランディ「水中考古学 地球最後のフロンティア」 ‘2022

水中考古学

深海よりはダイバー的な領域。本書後半は水中遺跡マップと連動した図鑑的。ヴァーサ号紹介の布石、水中物を陸へ上げる難しさと物理的理由が印象に残る。沈船系水中考古学者経歴化の半生が具体的で面白い。少しある、著者がダイバーとして潜ってる描写が良い。ロボットが活躍する。

小野林太郎+木村淳「図説 世界の水中遺跡」’2022

世界の水中遺跡

テック ダイバーが出てくるので、一旦さらっと写真だけ書店で確認。

フリーダイビング(アプネア)

呼吸するための器材を使わないダイビングという認識だが、なおかつ到達深度などを競う競技までを指すらしい。タンクもレギュレーターも用いないのでシュノーケリング同様、当然スクーバ視点の読書からは外れるが、知りたくはなる。ザボーラに乗ってフィンのみで潜降するノーリミッツという競技ではスクイーズ(肺の締め付け)が最初の難関で、それをマイヨールがクリアして水深100mを突破した。のちにオーストリアのハーバート・ニッチらが水深200mを越えて深海に到達している。

ジャック・マイヨール「イルカと、海へ還る日」 '1983

イルカと、海へ還る日

イルカとの関係、ヨガと科学の呼吸理論など、原作 HOMO DELPHINUS を訳者の関邦博の加筆で整え解説には自殺への考察もある完全版的内容。もちろん、原作箇所の回想とスピリチュアルな考察が本書のメインにあたるが、読後的にはスター後の当人のみ知る悲劇に触れるような1冊。無名時代ゆえグランブルーからの収益ゼロか。アプネア読了後で正解だった。

中野民夫「自分という自然に出会う」 '2003

自分という自然に出会う

武蔵小金井のダイビングショップ〈ビッグブルー〉の松元恵がマイヨールの思いを継承していると知り、書籍を調べ、中野民夫の内なる自然のワークショップ本で松元恵がフリーダイビングに出会い世界大会に出場するまでを綴った章を見つけて読む。

篠宮龍三「心のスイッチ -ジャック・マイヨールを超えた唯一の日本人-」 '2011

心のスイッチ

カラー写真とテキストのイントロから格好よく、冒頭〈自分には空気は必要ないんだ〉のキラーフレーズで読破したく思わせるフリー ダイバー。未読。

ウンベルト・ペリッツァーリ「アプネア 海に融けるとき」 '2013

アプネア

マイヨールやエンゾ後継フリーダイビング第二世代記録突破者の一人。水深100mでは心臓は8回しか鼓動しない等、達成した人ゆえの見解挑戦と、故の周囲の止めない諦めがある。彼の母は競技の度に毎回呟く、バイバイ、ウンベルト。原題は profondamente。

マイヨールの訳者関邦博が付録としてはわりと長い硬派な〈大深度閉息潜水の高圧生理学とペリッツァーリ〉を寄せていて、ノーリミッツを知るなら間違いなくこの1冊。邦訳が1996年、水中のノーベル賞と呼ばれる受賞歴も持つ関邦博の単著が1992,1993年の2冊なので、関邦博のテキスト観点でも重要。「イルカと、海へ還る日」も訳者解説以外に付録がついているが、単行本時からあったのか文庫化2008年に加えられたのか未確認。

ジャック=イヴ・クストー

1943年にアクアラングというのちのレギュレーターに繋がる世界初の自給式水中呼吸装置の発明者クストーから3冊。伝記「未来世代の権利」と、海洋探検シリーズ全7巻の2「海のテロリスト サメはなぜ人間を襲うのか? その本能と習性」'1973と、クストー隊の世界探検シリーズ全8冊'1994の3「南極 南の聖域を守れ!」。クストー海の百科シリーズ全20巻もある'1975頃。カリスマの一人なので当然だが、クストーの提供する素材量とテキストの豊富さで〈一世界〉を創造できることが嫌でも伝わる。海の冒険シリーズも青少年向けの内容だが文量もしっかりとした読物。ヴィンテージ感もある本なので手許に置いときたい感ある。2冊ほど購入していてともにまだ未読。

改めて調べると「クストー隊の世界探検 水中洞窟を偵察だ! - ドナウ川」という著書があるらしく、いずれ図書館で確認したい。

ケーブダイバー読書に、観賞済みの歴史的映像、クストー+ルイ・マル「沈黙の世界」 ‘1956 を置いている。

映像

リュック・ベッソン「グランブルー」 ‘1988 完全版

こんな映画なんだろうなーという昔の想像とまったく違い、天才2人の潜水記録対決で、フリーダイビングもザボーラという潜降装置を用いる想定外の競技で驚く。マイヨールとエンゾは実在モデルがいて話はほぼ創作。主役が口にする、深海から〈上がってくる理由が見つからないからだ〉という台詞は好きだが、寓話性が高い。

ザボーラを検索するとCNF(泳力のみ)で102m記録を持つウィリアム・トラブリッジが気になった。 グランブルー終盤でこの競技もう駄目なのかなってことが気になり物語が少し頭に入らなかったが、グランブルーの時代よりも100m以上記録が更新されてて安心する。

馬場康夫「彼女が水着にきがえたら」 '1989

ダイビングやのになんで水着やねんと思いつつ、Cカードを持ってるだけでモテるくらいファンダイブを流行らせた映画を一応見てみたら、潜りまくるしジェットコースタームービーだしサンゴ礁きらきらじゃなく沈んだ飛行機の残骸探すし、ある意味でサザンMVだし、むっちゃ面白い。平和全開だな。原田知世も好きになる。

アニメ「あまんちゅ!」 ’2016/2018

天野こずえ原作、高校ダイビング部設定の漫画。1stシーズン1話と2ndシーズン1話を観る。原作漫画の方が内容が詰まってそうで良いのかも。女子たちが楽しそうに青春してる群像モノで、レビューを見る限りダイバーな描写は少ないらしい。

クレイグ・リーソン「プラスチック・オーシャン」 '2016

ドキュメンタリー。冒頭に女性フリーダイバーが出てくる。画像で見た記憶はあるが、死んだ魚に詰まったプラスチックの件、映像で見せられると心に刺さる。誰もが身近な筈の地獄みたいな世界。活動家が生まれる過程。

ジェフ・オーロースキー「チェイシング・コーラル-消えゆくサンゴ礁-」 '2017

Netflixドキュメンタリー。リチャード・ビバース(海の最大の問題は見えなくて意識されないこと)がきっかけで、ザック・ラーゴが昔カリスマ視していたがサンゴ礁問題について楽観的だったジョン"チャーリー"ベロン博士の意識が次第に変わる物語でもある。

ヨハネス・ロバーツ「海底47m」 ’2017

マンディ・ムーア主演の娯楽スリラー映画。サメ観察ケージダイビング落下、その後現実的に不備ありすぎてダイバー当事者は観てらんないんだろうと素人目にも分かる感じが気になりつつ、終盤はまあまあ楽しめた。興行収入良かったらしい。全方位の海感がとても良い。

日曜劇場「DCU Deep Crime Unit(潜水特殊捜査隊) 手錠を持ったダイバー」 ‘2022

リブリーザー監修:田原浩一ということで見始めたが面白くて感動。主役演ずる阿部寛は相変わらず格好いい。岡崎体育が堂々と主演していたり、女子女子感ゼロの主演女優たちが素敵。全体的にはダイビングシーンがほとんどなくそこは残念だったが、日本人が潜るフィクション良い。

後記(沼没入の流儀)

こうやってまとめてみると本当に沼だなと思わされる。幸福度のコアにあるのは〈没入〉で、かつて各種仏教の知識を得るために様々読んでいたとき成る程これは掘れば掘るほど人の一生程度の時間では全掌握は無理だなと、階級上昇ゲーム要素と迷宮というイニシエーションをうまく組織させたそういう宗教構造もあるのかと感銘したことがあり、そういう構造はデータベース消費的なものから文芸から政治経済、自然科学、オカルト、性、何から何までこの世界にはあり、そういう拡散系は、ひたすらテトリスやパチンコをやり続けてしまうようなミニマル系よりも情報共有という外に開かれたオプション付きなので一段有意義ではある。自分の場合、制作に繋がるのでより付加価値があるし、知人たちにダイビングしたことある?と聞いたら案外なにかしら経験者が多くいて、唐突な切り口による別の顔を知るきっかけになり、人間関係的にも多面的になり面白い。〈沼〉嫌いだけどねとよく口にするが(それが哲学的思考だが)、そもそもケーブダイバーのダイビングスポットは大抵、リアルな沼が入り口だ。沼没入流儀というものが、少し見えてきた気がする。

上のケーブダイバー読書と合わせて、去年読んだダイビング読書をまとめるのに半日かかってしまったが、その作業自体が良い没入だった。

_underline, 2023. 3

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