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私がパパ活で若い男を選ばない理由

 私は仲谷絵里。ハタチ。大学生。
 ここのところ月四回くらい、タワマンパーティに行っている。
 最初こそめちゃくちゃ警戒してた。けど、おじさんは結構節度があるのだ。既婚者は特に。中学や高校では彼氏がウザいくらい求めてきたりしたけど、基本的におじさんたちは強引に求めてくることはない。たとえ求められても、少しの労力で満足してくれるからコスパも良い。バイトはもう辞めた。
 テキストログを残さないよう、やり取りは基本、電話。どうしてもメールしなきゃいけない時は捨てアドで。個人的にはこれがパパ活リスク管理の基本だと思う。
 あ、やば。この人何話してたっけ? まぁいいや。愚痴と自慢の混ざった奴って返しにくいから、そろそろ黄色い声でも上げておこう。
「え~っ、都庁ってカッコイイと思いますよぉ。私」
「ブラックか!? って思う日もケッコーあるよ。それに公務員って言うと堅いイメージ持たれがちなんだよねぇ」
「でも市川さん爽やか系じゃないですか~。爽やか×掛ける公務員なんて絶対モテるっ」
「褒め過ぎだって! 爽やか系なんて芸能人にめーっちゃいるし、もう笑いでも取らなきゃ差別化できないよ。合コンじゃあ自己紹介の時、『市川健介です。市川って名字ですけど千葉ではなく東京都町で働いてます』ってボケから入るかんね俺」
「なんですかそれぇ~ウケる」
 ウケねぇよ。そもそも芸能人を引き合いに出そうとする時点で自意識過剰。
「てゆーか絵里ちゃんてさ、意外に超美人さんじゃん? こういうパーティ結構来んの?」
「ヤだな、そんなに来ないですよお。アウトドアサークルで知り合ったマコさんって人の紹介で知ったんで、たま~に顔出すくらいです」
「へー! 絵里ちゃんアウトドアサークルなんだ! 実は俺も…………」
 ……。
 …………。
 はぁ。ウルさ。
 今日はちょっと気分を変えてみたんだけど、やっぱ若い人相手って思ったより疲れる。
 特に、他の男が隙あらば会話に割り込んでこようとチラチラ見てくるのがウザい。マンションのワンフロアって言ってもせいぜいモデルルームで見る一戸建てくらいの広さだから、さっきみたいにうっかり部屋の中央で話しちゃうとアチコチ気をつけなくちゃいけなくて鬱陶しい。
 適当な人を見つけて壁に寄って正解だったな。今日の女じゃ私がルックスも一番だし、部屋全体を見渡せる中央の壁際は、場の空気感を支配してヒエラルキーを分からせるにはうってつけ。
「健介さーん、お酒の差し入れっすー。ていうか絵里ちゃんにも少しは喋らせてあげましょーよ」
「ンだよ隼太しゅんたぁ。邪魔しにきたのかぁ?」
「絵里ちゃんがヒマそーだったんで、助け舟っすよ。絵里ちゃんもオッサンの話聞かされて疲れたっしょ?」
 そう言ってチューハイを手渡される。ええっとこの童顔男は……確か北崎隼太……だっけ? 医者の卵だか研修医だか。そんな感じだった気がする。さすが私的今日の有望ナンバーツー。気が利くぅ。
「お~っ、流石は医者のお兄さん! お酒ありがとーございます」
「良いってコトよ。体調管理は俺にオ・マ・カ・セ」
「わー、なんかエッチぃ」
 わざとらしくイヤそーな顔をしてみる。
「若いなあ隼太は。あんま調子こいてると、またフラれるぞ~?」
「ちょ! やめてくださいよもう。つーか絵里ちゃん、さっきマジで困ってましたからね? 一回り近く歳上のおっさんにゃわかんないっかな~」
「はぁ? 安定してきたアラサーの円熟感なめんなよ?」
「いやいや。九つも離れてちゃ友達にも言いにくいに決まってんじゃないっすか。俺くらいがちょうど良いっしょ。四つ差だし」
 ははは。私のパパ活相手は四十とか歳上だけども。
「うーん。私は二人ともそれぞれ違った魅力を感じますよ? どちらも素敵だと思います~」

 しまった。
 無難にというか、適当に返しすぎた。

 おかしな方向に火を付けてしまったようで、仕事やら趣味やらのマウント合戦が始まってしまった。
 私が序列を示さなかったから互いに蹴落とし合っている……。
 あっちがマリンスポーツがどうとか言ってたら、こっちは全国の温泉旅行がどうだとか言い出した。
 なんだろう。すごくどうでもいい。どっちも自己顕示欲まみれじゃん。
 こういう自分の自己顕示欲に気づいてないタイプの男って、一番面倒なんだよね。

 あーあ。やっぱビジネスライクでWin-Winなパパ活はおじさんに限るってわけか。

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