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女子高生に感謝した日

「――やっぱセレブやばいわぁ、超憧れる」
「誰これ?」
「エレナ・パーカーだよ! インスタフォロワー世界五位っ! ほら見てコレ、ニューヨーク? いいよねぇセレブ」
「いや別に……こんなギラギラしたとこに住んでたら視力落ちそう」
「ゆってもドコ住んだって翔子、家から出ないから同じじゃん」
「まーねー。エッセイストはスマホ一台あれば引きこもりでもできる職業なのだぞ」
「ムリムリ、あたし現国赤点」

 ふむ。
 半休で上がって適当に新宿のサイゼに来たは良いものの、女子高生の話に聞き耳を立てるキモい二十代になってしまった。ギリギリアラサーじゃないからセーフ。ってそういう話じゃない。
 彼、横山昌秀は普通の会社員である。
 土曜だから上がったとはいえ、残しておくと脳みそに引っかかる微妙な雑務をつまみ片手に終わらせていたわけだが、区画を隔てた向こうの女子高生二人の会話がどうにも気になってしまった。
 セレブ志望とエッセイスト志望が仲良く、ヤイノヤイノと歓談しているのだ。彼の先入観ではてっきりセレブ志望側が上から目線に比べ出すものかと思いきや、全くそんなことはなく。
 ごく平然と、まるで前提のような扱いで、互いが尊重されている。
「陽キャが陰キャをあしらっているだけかもしれない」
 アヒージョを頬張りながら、いくつかの可能性に頭を巡らせてみる。仕事は先程から二十分ほど停止している。二回ほどスクリーンセーバーも起動した。

「んでさー、エッセイって何書くの? 現国?」
「なワケ。雑誌とかネットとかに書くんだよ。オススメのゲームとか」
 くっちゃべりながら横山の後ろを通り過ぎ、ドリンクバーへ向かう女子高生二人。ついついその姿を目で追ってしまう。
 スカート短っ!? なんだあれ、歩いただけで見えちまうぞ。いや、見ないけども。
 スカートの短さにも驚いた横山だが、その綺麗なメイクと程よく巻かれた茶髪にも驚かされた。岩手から上京してきた彼からすれば、二人は異次元の存在にしか見えない。不意にパラレルワールドへ異世界転生したのかと思うほどだ。
 とっくに冷めたマルゲリータの固さを咀嚼すると、引っ張られて脳も回り出す。戻ってきた彼女らは途切れることなくお喋りをしており、彼はふと疑問に思った。

 自覚ある田舎者の横山が定義するに、二人ともバリバリの陽キャである。盗み見ただけだが、エッセイスト志望の子の方が落ち着いていた髪色をしている程度の差だ。二人して原宿や渋谷でウェーイしてても全くおかしくない。
 なのに志望する方向が全く違う。
 人って大体、似たもの同士でツルむんじゃなかったか?

「つーか、可奈がマジでセレブになったら最初うちが書くわ。独占で」
「やば。最高じゃん、頼むわ~」
「赤点セレブって書いとくね」
「それじゃビンボーみたいじゃんか」
 楽しそうにケラケラ笑いながら話している。
 確かに外見の印象は『似て』いた。その同族感があるから、中身の指向性が違っても許容できているのかもしれない。

「……大人なんて、派閥ありマウントあり。下っ端は顔色を伺うばっかだからなぁ」
 会社員なんてスーツばかりだし、『似た』外見のはずなんだが。
 金が絡むせいなのか、いつの間にか内面の多様性に対する寛容さなんて失っていた。
 横山にとっても耳が痛い。
 もっとも、彼女らは例外的な存在かもしれないが……それでもふと心の豊かさを取り戻させてくれた二人に、彼は感謝した。
 学生時代の友達に連絡でもしてみるか。

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