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聖域のベルベティトワイライト

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一次創作小説。ファンタジーものです。 ある程度書き溜めたら随時更新していきます。
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記事一覧

聖域のベルベティトワイライト (20)

高貴なる者の響合    昨晩の嵐は、今朝も続いている。 「ここ暫く雨が降らなかったから恵みの雨といえば、そうだけれど…ちょっとこれは降りすぎだよね」  窓の外を見つめ、げんなりした顔のルーが話しかけてきた。  暗く澱んで湿った空気、そして稲光と大粒の雨の音が僕の心を煽ってくる。 「これから兄上に報告しに行くのに…まるで何かの兆しみたいな天気で二の足を踏んでしまうよ」  とはいえ、話しておくと言ってしまったのでこのまま放置しておくわけにもいかない。 「リズは、この部屋で待機し

聖域のベルベティトワイライト (19)

幻影輪舞 「貴方、フェリシオンの事は、どう思っているの?」  ベッドに入り、さて寝ようという時、急に昨晩の事を思い出した。  ——時は遡り、昨日の丁度今と同じ様な時間。  夜の挨拶をしていつもの様に自室に入り、いつもとは違う夜を過ごした。 「ふふふ、寝る前にこんなに笑ったのは、久しぶりよ。貴方たち、いつもこんなに賑やかなの?」 「そうですね。いつも楽しいです」 「それは本当に何よりだわ」  そう言われると、エレシアス様はこの部屋の内装をぐるりと見渡された。 「このお部

聖域のベルベティトワイライト (18)

有為転変 〈侍女たちは、各自の部屋に戻っていったわ〉    この日、いつもと変わらぬ素ぶりで一日を過ごしていた僕たちは、姉上の合図で動き出す。 〈了解です〉  作戦通り、先ずルーに姉上の部屋の中に転移してもらい、姉上が作った複製体の存在を確認すると戻り用の小さな転移装置を人目につかない様、寝室のチェストの引き出しに入れてもらい、姉上と一緒に僕の部屋へ転移して戻ってきてもらった。   「お疲れ様です、姉上」 「うふふ。なんだか子供の頃に戻ったみたいでワクワクしちゃう。貴方

聖域のベルベティトワイライト (17)

紫雲英  陽が少しずつ傾いて影が徐々に伸びだす時刻。  限られた時間ではあったけれど、畑でフェリ王子のお兄様のお話の輪に入れさせていただいた。  フェリ王子のお姉様やお兄様たちは、仲が良くて本当に素晴らしい人たちばかりだ。そして勿論、フェリ王子も。 「まさか本当に私たちを連れて行こうとしていたとは…」 「断っておいたけれど…さて、どうなるだろうか」 「無理やり連れて行かれそうなのですか?」  畑から戻って来てから心無しか、お二人の表情が曇っているように感じる。 「姉上

聖域のベルベティトワイライト (16)

帰還  三人で庭園の片付けを終え、自室に戻り、テーブルの上に置いていたピンブローチを手に取ると姉上のエナジーの波動を感じる。  僕は、それを身に付けると声を出さずに姉上の心に直接語りかけてみた。 〈…姉上、フェリシオンです。この声は、届いているでしょうか?〉 〈あら!フェリ、物凄くクリアに聞こえるわ。…それにこうやってダイレクトでやり取りしているのに魔力の消費も感じられない…このピンブローチは、こういう事に使う為のものだったのね〉  状況を把握した姉上は、直ぐに僕と同じ様

聖域のベルベティトワイライト (15)

計画遂行  今朝は、寝覚めがとてもいい。フェリ王子とルーに徹夜を禁じられて睡眠時間がいつもより長かったからなのだろうか。お陰でいつもより早起きだった。それに最近夢で聞こえてくる女の人の声も今日は感じられなかった。ただ…昨晩寝た時と今朝起きた時の方向が真逆なのには、自分でも思わず声が出てしまうほど驚いてしまう。 「私…今まで寝相は、そんなに悪い方じゃなかったはずなのになぁ…」  実は、覚えていないだけでこっそり夜中に起き上がり、勉強をしていたのではないかと机を見ても参考書に

聖域のベルベティトワイライト (14)

音貌  湖での出来事でアルテリア姉様の外見の成長が止まったあと、緩やかではあるが確実に時は過ぎ、やがて成人を向かえたエレシアス姉様が代理として父上に付き添い公務をこなす様になると、その美貌と才能はあっという間に王都…そして国を超えて隣国まで届く様になった。  エレシアス姉様も強力な魔力を保持しているとはいえ、アルテリア姉様や僕と比べると劣ってしまうので王族に生まれた『姫』としていずれ隣国に嫁がねばらない。父上は、温厚な性格なのでその気になるまでは待ってくれている様だけれど『

聖域のベルベティトワイライト (13)

貴人の胸宇  コツコツ    広い廊下に靴音が響く。  城内は、とても広いので一人ではまだ出歩けない。  今から向かう先は、エレシアス様のお部屋がある領域だ。   「リズは、此処から先は初めてだったかな」 「はい、なんだかとても華やかですね」    フェリ王子の区画も綺麗なのだけれどエレシアス様の区画は、別の意味でとても華やかで嫌味ではない仄かな花々の香りに満ちた空間なので若い女性の使用人が憧れる配属先というのもわかる様な気がする。多分、此処に居るだけで自分もお姫様になった

聖域のベルベティトワイライト (12)

  感触  転送装置を使い、急いで城まで戻ると使用人たちが忙しく動き出す直前だったので其々が羽織っていたローブやルーの荷物は全部引き受けて二人にはいつものルーティンに戻ってもらい、僕は何事もなかった様に自室に入り事なきを得た。  それにしても今日は、色々出来事があり過ぎた。  城下の食べ物を初めて食べたり、商業区の様々なギルドや商店を見て周り、居住区の人々と話をして活気を体感できた事。…そしてルーが、休暇明けの使用人から城下の話題を聞いていなかったらきっとあの人と巡り会

聖域のベルベティトワイライト (11)

 邂逅遭遇  城下の守備隊駐屯施設にある隠し扉を抜けると其処は、各居住区に通じる通路になっていた。 「此処は、貴族の区画と商人や平民の住む区画の丁度中間地点になっていてね、お忍びをするにはもってこいの場所なのだと昔、姉上たちが教えてくれていたんだ」  現在お二人は、心配する国王や大臣たちの目が厳しくなったので公務としての外出しかしていらっしゃらないらしい。だから『公務』である結界の巡回の時は、あの様に羽目を外されているのだと察した。 「先ずは、食事にしよう」 「ちょっと待っ

聖域のベルベティトワイライト (10)

支度 「大まかな内容は、ルシエルから聞きました。私の方は、何も問題ありません。貴方の好きな様になさい。リズリエットから良い返事をもらえたらドレスもこちらで手配しましょう。その時は、好みのモチーフなどをしっかり聞いてくるのですよ。私とアルテリアお姉様で最高の一品を仕上げてみせますわ」 「ありがとうございます。姉上」  エレシアス姉様は、多分反対しないだろうと思っていたが、こんなにあっさり返事がもらえ、しかもかなり乗り気なのには驚いてしまった。しかも…よくよく聞いてみれば、あ

聖域のベルベティトワイライト (9)

 黎明  使用人でも利用が出来るライブラリーは、私にとってキラキラした宝箱に見える。但し、文字はこの国のものなので今のままでは殆ど読む事なんて出来ない。だけど幸いな事に私が暮らしていた国とさほど遠くない文法だという事をルーから教えてもらったので私は時間がある時にこのライブラリーに通い、借りても大丈夫そうな本は部屋に持ち帰り、寝る前に少しでも学んでいずれ一人で読める様になりたいと決意を固めた。  それにしてもお風呂の件。妖精は性別が無い生き物なのだと頭では解っていてもやっぱ

聖域のベルベティトワイライト (8)

 一計  今日は普段はやらない事を朝からしていたからなのだろうか…お茶の時間が終わった後、夕暮れあたりから本を読んだまま寝ていたらしい。  直ぐに起こしてくれればよかったのにとルーに言うとリズに「お疲れみたいなのでこのまま寝かして差しあげましょう」と言われたんだよと聞かされたのでそれ以上何も言えなくなってクッションに顔を埋めた。 「…そういえばリズが居ないけれど」 「あぁ、フェリが寝てしまってから使用人も入れる方のライブラリーに案内してお互いの国の読み書きを教えあったりし

聖域のベルベティトワイライト (7)

  蒔かぬ種は生えぬ 「ルーに付いていって良いですか?」  屋外にある設備をある程度教えてもらい戻ってきた頃には西陽が傾き出し、フェリ王子が、丁度良いからお茶にしようかとルーに声をかけていたので出来る事を少しでも増やしたいと思い、私も付いていきたいと切り出してみた。 「いってらっしゃい」  王子は、にっこり微笑んで送り出してくれ、私は今ルーと一緒に台所の前まで来ている。扉を開けると数名が今夜のディナーのための仕込みをし始めていた。ルーは、その中で手が空きそうなメイド