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人が集まる限界集落~演劇の聖地、利賀村での暮らし【牛島ゼミ・トガプロ寄稿記事】

「人口は少ないけど人が集まる」「限界集落なのに活気がある」「極寒だけど温かい」そんな、一見矛盾だらけの村を訪れた。

写真は毎年5月に行われ、100年以上の歴史を持つ春祭りの様子。村の地区ごとに姿の違う「獅子」が村を練り歩き、村外からも多くの人が集う。

富山県南砺市にある利賀村。富山市内から車で1時間、山々と川に囲まれた自然豊かなこの村の人口は500人にも満たない。冬には一面雪景色となり、極寒の地に様変わりしてしまう辺境の地でありながら、豊富な水資源を生かして美味しい作物を育てる「暮らしのプロ」が沢山いる。

それだけではない。世界的演出家である鈴木忠志氏が率いる劇団「SCOT」が拠点を置いてる。毎年8月末ごろには演劇祭が行われ「演劇の聖地」としても知られる”秘境”だ。

写真は一番人気の演目「世界の果てからこんにちは」。この期間は世界中から多くの人が集まり、過疎と高齢の進むこの村も異様な活気に包まれる。

真冬の利賀村。山と川と雪が織り成す絶景だ。
今回の舞台は夏の利賀村。新緑のさざめきと涼しげな空気がもてなすこの村の山間部に、ひっそりと佇む民宿「いなくぼ」を営む"米倉みつ子”さんを訪ねた。


【米倉みつ子】
1933年12月19日生まれ85歳 富山県南砺市利賀村出身。 民宿『いなくぼ』を経営していたが現在は休業中。様々な作物を育てており、冬の時期でも畑には赤カブやネギなどの作物が植えてあり、春になり雪がなくなると収穫するというように、みつ子さんの畑は1年中稼働している。

やっぱり自分ちで作った味噌がいいなあちゅって。

―みつ子さんこんにちは。今日は、お話を聞く機会を下さりありがとうございます。
早速ですが、みつ子さんは普段はどんな事をされているんですか?

「いつもはだいたい畑仕事しとるねぇ。このまえまでは民宿やってたんだけど、今は休業しててね。「なんば味噌」作ったり、無臭にんにく作ったり、今は農作業ばっかりしとるね。
やっぱり自分ちで作った味噌がいいなあちゅって。


―みつ子さんは、特になんば味噌に力を入れてるそうですが、どんなことにこだわって作ってらっしゃるんですか?

「まあ、こだわりって言うほどじゃないけど味噌も、なんば(鷹の爪)も自分ちで作っとる。買うた味噌を使ってみたこともあるんやけどね。
最初はおいしいけども、日にちがたつとなんだかねぇ。
保存料入っとるさかいかおいしない。わぁ、やっぱり自分ちで作った味噌がいいなあちゅって


― やっぱり味噌が大事なんですね。

「自分ちで作った味噌だと味がだいたい一緒よ。同じようにして作っとった母ちゃんにね、『お前んとこみたいにはならんわぁ』と言われてね。それは味噌が違うからやないかなあと思って」

― なるほど。味噌の味でずいぶん変わるんですね。なんば味噌ってどういう味付けなんですか?

「なんば味噌はね、味噌お砂糖鷹の爪だけで味をつけるの。鷹の爪は時期が短いから、頑張ってとって、一所懸命刻んで。刻むがが大変なが。1ミリほどに刻むから。だからね、わたしが大変だいうとったら嫁はんやら娘やらがやってくれるいうてあら嬉しいと思ったら、手やけどしたって。

― 手をやけど!笑 みつ子さんは大丈夫なんですか?

「わたしはね、もう手が慣れちゃったのよ。その代わりね、ハクションが止まらんのやけどね(笑)」


― すごいですね(笑)。鷹の爪はいつごろ収穫されるんですか。

「秋よ。9月とか。でも来年のために種もとらんとやから、すこし残しておくのよ。
鷹の爪は、色がね、緑からだいだい色になって、最後は赤になる。いろんな色のを適当に採ってきて、混ぜるんよ」

― いろんな色の鷹の爪を混ぜて、辛さの調節を?

「そうそう。緑のやつはまだそんなに辛くなくて、赤いのが一番辛いのよ。そんで、いろんな色をいい塩梅で混ぜてね。辛さを調節しとる

みつ子さんは、研究熱心だ。
こだわりっていうほどではないと謙遜しつつ、美味しさを追求している。そんな、みつ子さんにおすすめの食べ方を聞いてみた。

― みつ子さんお気に入りの食べ方はなんですか?

「やっぱりちょこっとなんかにつけるのが美味しいなぁ。利賀の木綿豆腐とかは美味しいねえ。注文でないと食べれん豆腐なんやけどね。保存料使ってないから余分に作れんと、1日とかしか持たんのよ。冷奴にして食べるんもいいし、ちょうっと薄く切って、豆腐の刺身みたいにして食べるんもいいね」

― 利賀豆腐になんば味噌は最高ですね。

「そっからきゅうりに味噌をちょこっとつけるんもいいし、一番好きなのは、ご飯に乗せて食べるのやね。おにぎりの中に入れたりとか。それから、料理の味付けに使うのもいいがね。味付けとしてなんば味噌を使うのよ」


ここで、みつ子さんが利賀豆腐をふるまってくれた。なんば味噌のピリ辛さと豆腐の甘さが絶妙に合う。

安心で安全なものを、そして人とのつながりを

― みつ子さんは、毎年いろんな作物にチャレンジしているそうですね。なにか理由があるんですか。

「身体にいいとか、みんなが喜ぶとか、やっぱ食べておいしかったり栄養があったりするから自分で作ってる。ほいでやっぱり、食べることはほら、身体のね、元になるから安心で安全なものを食べとりゃあやっぱり元気やからと思って」

― 安心で安全なものを作ることを大事にされているんですね。

「畑ね、今化学肥料使っとらんが。代わりに発酵肥料使っとる。やっぱり化学肥料はね、土を固くして、微生物を殺してしまうっちゃね。ほいでまたね、農薬なんかも使わんようにしとる。
でね、そうやって作った野菜とかをね、知り合いとか、来てくれた人には、『欲しければ送るよ』なんて言ってね。着払いだけど。運賃かなわんから。はっはっは」

― みつ子さんは、人とのつながりを大切にしていらっしゃるんですね。

「(利賀村が)東京の武蔵野市と姉妹都市になっとるおかげで、東京の人がよう来てくれたからここに居ながらもいろんな人達といろんな話が出来た。そりゃ楽しくってね。昼間は畑仕事して、夜は夕食ふるまって。
中には、毎年来てくれる人もいてね。おかげさまで、人とのつながりが沢山出来て嬉しかった。だからまあ、民宿やっててよかった。私もね若い人たちと話してこうしてお話するさかいに元気もらってるかもしれんね」


「安心で安全なものを、そして人とのつながり」を大切にする。こんなにあったかい人がいるということが、たった人口500人の利賀村に大きな注目が集まる理由の1つなのかもしれない。

北陸地方の限界集落と聞くと、厳しい冬の寒さや希薄な人間関係をイメージするかもしれない。しかし、実際にみつ子さんの話を聞いてみるとそんなことはなかった。

少なくともみつ子さんは、食や民宿であたたかい暮らしと豊な人間関係を紡いでいた。
みつ子さんの暮らしには常に「人とのつながり」があった。私たちの、”利賀村の関係人口を増やす”という活動の原点は、彼女の様な人々の暮らしの中にあるのかもしれない。

ライター=野元俊之介
撮影・デザイン=松尾恵子,他


※みつ子さんが経営していた民宿いなくぼは現在休業中です。興味を持たれた方は弟さんの中西邦康さんが経営している民宿「中の屋」へぜひ!

◆中西さんが運営する民宿「中の屋」
HP ,楽天 ,AirBnB ,るるぶトラベル

TABETAIが連携しているゼミの1つに慶應義塾大学 牛島利明研究会 「利賀プロジェクト」があります。ぜひ活動をチェックしてください!
Twitter:@gyutoga
Facebook:GYUTOGA

※この記事は2020年1月に作成された記事です


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