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二酸化炭素を捕らえて、貯めて、食べる

ここ数年で、カーボンニュートラルという言葉を頻繁に聞くようになった。

世界中でブームになっているこの分野で、どんな技術が生まれているのか、食品企業研究者が趣味程度に調べてみた記事だ。
興味のある人に届いて、未来の世界にわくわくしてもらえたら嬉しい。

本気でやばいと思い始めた人類

私は今年27歳になったけれど、小学生の頃とは気候が明らかに違うと感じる。
九州・沖縄を直撃する台風の威力はこんなに昔も強かったっけ?
札幌に梅雨が来るようになったのはいつからだろう?
温暖化と言われすぎて、何も変わっていないのに不安からそう感じてしまっていると思っていた時期もあったけど、残念なことに地球が暑くなっているのも、異常気象が増えているのも事実らしい。
菅さんも所信表明で脱炭素を宣言していたっけ。
環境意識の高いヨーロッパの人たちはもっと前から脱石油に向けて動いているし、消費大国のアメリカもカーボンをとにかく減らそうと躍起になっている。

人類は自分たちが生きる環境を守ろうと頑張り始めたところだ。
(地球を大切に、というフレーズは個人的には好きではない。仮に表面温度が1000℃になって、海が蒸発しても地球は平気で「生きて」いるのだから。)

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、大気中から吸収する二酸化炭素量と、排出する二酸化炭素量を等しくすることでプラスでもマイナスでもない「ニュートラル」になるという考え方だ。

カーボンニュートラル技術でよく紹介されていて有名なのはバイオディーゼルだろう。
バイオディーゼルの正体は、植物や藻が作る油である。
言ってしまえばサラダ油と同じだ。
植物や藻の種類によって作る油が違っていて、中には燃料に適した油もある。
この植物油をガソリンのように使って車を走らせたり、飛行機を飛ばすことが出来るのだ。
バイオディーゼルがカーボンニュートラルになるのは、植物や藻が光合成をするからだ。光合成とは、二酸化炭素と水とから糖を作る反応だ。植物や藻などの緑色の奴らは二酸化炭素を吸収して栄養に変えて食べているのだ。

ガソリンを燃やすと二酸化炭素が排出される。このガソリンをバイオディーゼルに替えてみたらどうだろう?
植物や藻の体を作っている炭素の成分は、もともと大気中にあった二酸化炭素だと考えられる。それが燃やされて大気中に放出されても、大気中に「戻ってきた」だけで増えてはいない、ということになるのだ。

これが日本でよく浸透しているカーボンニュートラルである。

カーボンネガティブという概念

ただ、脱炭素を最近急激に推し進めているアメリカでは、違ったアプローチの脱炭素が先行している。
上記のカーボンニュートラルでは、二酸化炭素排出量はゼロ以下にはどうしてもならないが、アメリカ式ではゼロ以下、マイナス、つまり「カーボンネガティブ」も可能になる。

CCSという考え方

CCSとは、'Carbon dioxide Capture and Storage'、日本語では「二酸化炭素貯留」のことである。
CCSでは、二酸化炭素を活用することは考えなくてよい。
ただ、ひたすら隔離して閉じ込めておくのだ。

どこに?
深く深く、地下深く、海の底、だ。

二酸化炭素を捕まえろ!

CCSにおいて技術的に大変なのは、二酸化炭素を捕らえる(Capture)段階だという。
二酸化炭素キャッチの方法としては、海水中で二酸化炭素をコンクリートに変えてしまう技術が私としてはとてもクレバーだと思う。(Heimdalという会社がやっていることだが、二酸化炭素をアルカリ性に処理した海水に溶かし込むことで海水中のミネラルと二酸化炭素が反応して石灰になる。
石灰はコンクリートの材料となり、二酸化炭素はコンクリートに閉じ込められたことになる。)

このようにして、二酸化炭素を閉じ込めるとどうなるか?
閉じ込めた二酸化炭素量が排出する二酸化炭素量より多くなり、大気中から二酸化炭素が「減る」=「カーボンネガティブ」な状態のできあがりである。

アメリカではこのCCSにとにかく力を入れている。
封じ込めた二酸化炭素の量に応じて、企業の税金を控除する税法(通称45Q)が制定されている。
これにより、脱炭素に力を入れれば入れるほど経営状況も良くなり、株式市場における企業価値も上がるという寸法だ。
ESG投資陣からの資金流入も期待できる。

ちょっと脱線: 光合成のはなし

光合成生物が二酸化炭素を吸収する効率を上げれば植物でもカーボンネガティブにできたりするのではないか?と思うかもしれないが、光合成は広く存在している割に効率の非常に悪い反応であったりする。

生物の体の中で起こる反応は、「酵素」が触媒している。(お米を噛んでいると甘くなるが、これはアミラーゼという酵素がでんぷんを分解して糖にしているからだ。)
酵素が有能だと反応は早く効率的に進む。
酵素が無能だと、反応はとても遅くなったり、材料ではない物を拾ってきて目的物ではない別の副産物ばかり作ってしまったりする。

光合成の肝となる酵素(Rubisco)は実はめちゃくちゃポンコツなのだ。余計な反応をたくさん起こして副産物を作ってしまう(しかも副産物を放置すると毒性をもつ)ため、光合成生物の体はその副産物に対処する機構を備えて対処している。どの光合成生物でも同じくらいポンコツなので、これ以上良くできないのだろうと思われる。

追記:2020年に神戸大学がRubiscoの機能改善に取り組んでいたようです!ありそうでなかった研究成果ですね~🌱

人工光合成

天然の光合成よりも、例えば二酸化炭素を金属触媒に触れさせて電気的にエチレンや酢酸といった有機物に固定する方が何百倍も効率的だったりする。


二酸化炭素は食べられる

微生物を使って、二酸化炭素を原料にタンパク質や油脂を作っている会社もある。まだまだスタートアップの域を出ないが、これからに期待できるのではないだろうか。
これから私たちの主食は二酸化炭素になっていくのかもしれない。


おわりに

日本では、「二酸化炭素をどう使っていくか」という点にフォーカスした技術が先行しがちであるが、今まさに直面している問題は「大気中に二酸化炭素が多すぎて温室効果が高まり、気温が上がりすぎている」ということなのだ。
これに対処するためには、二酸化炭素を「増やさない」だけでは足りない。
二酸化炭素は減らさなければならない。

いつか美味しく食べられるときが来るまで、地下深く、海深く、冬眠前のリスのように二酸化炭素を埋めておくのだ。

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