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漫画家10周年の手前で少し振り返ってみた話

2020年あけましておめでとうございます。にしうら染です。

今年の9月で「にしうら染」の名前で漫画家として仕事を始めてから、10年になります。デビュー作の4コマ『セーラー服でもあいしてね』がまんがタイムスペシャルに掲載されてから、同誌で『踊る!アントワネットさま』の連載を始め『シネマに恋して』『前略、パリは甘くて苦いです。』『モネのキッチン』などの作品を描いてきました。

2018年末『モネのキッチン』の最終話のネームを描き終えた辺りで、ふと自分の創作活動(仕事や同人も含めて)を振り返ってみると、連載仕事の漫画を描くだけで余裕がなく、ここ数年新しいことを始めたり勉強したりがほぼできていない…と気づきました。

そこで、2019年後半は仕事のペースを落として、絵の勉強や今後の創作のための取材にあてることにしました。

具体的にやってみたのは以下の事です。

■一ヶ月弱のフランス旅

『踊る!アントワネットさま』『前略、パリは甘くて苦いです。』『モネのキッチン』など度々、自分の作品の舞台にしていたフランス。

学生の頃からフランス絵画が好きで大学でも西洋美術史を専攻していましたが、実際に訪れたのは2014年の夏に一週間だけ。行けなかった場所も多々あり、一度ゆっくりと滞在してみたい、できれば現地の人たちと同じ様に生活してみたい…と以前から考えていたのを、この機会に実行に移す事にしました。

行きたい展覧会(オルセーのベルト・モリゾ展)に合わせて、9月の飛行機の往復チケットを取り、短期のアパートを借り、ノルマンディー地方のモネの故郷のル・アーブルに行くために列車のチケットを取り…いまはほとんど日本からネットで出来るので便利ですね。今回はほぼツアーを使わず一人で行きたい場所を気ままにふらふらする旅でした。

旅のつぶやきや写真は以下のページにまとめているので、興味のある方は見てみてください。

小さなトラブルはちょいちょいありましたが、大きな問題は特になく「本当に行ってよかった!」と心の底から思える旅でした。ノルマンディー列車旅や思い出深い場所の話は、旅行記漫画で描きたいと思います。

そして次回作(予定)の資料写真もたくさん撮ってきました。きちんと活かせる様に頑張りたい。


■15年ぶりの絵の勉強

『モネのキッチン』という印象派の画家モネを主人公にした漫画を描いている最中、作中に出てくる印象派の絵画を何回か模写したのですが、その時にしみじみと思ったのが「画家、めちゃくちゃ絵上手いな…」でした。

100年以上も名前が残っている画家なんだから上手いのは当たり前です。が、絵って模写すると技術的にどれだけ上手いか、どこを見せたいかを考えて練られた構図か…それらの事がよりわかるんです。あと目の前にお手本があるのに、その通りに描けない自分の技術の拙さも。

漫画のスキルアップのためにも、もう少し自分の思う様に絵が描けるようになりたいな〜と思い、大学卒業して以来…15年振り位に絵の勉強をするべく美術解剖学のセミナーやクロッキー会に行きました。

セミナーやクロッキー会に久々に行ってみて、何よりも感じた事は「手癖まかせで描いていた部分が多すぎる事」でした。絵を描くときの観察の大事さ、何気なく描いていた人体の構造で知らなかったことの多さ…それを改めて痛感しました。学生以来のちゃんとした絵の勉強はとても楽しかったです。

セミナーは主にボーンデジタルさん開催のものを受講してました。不定期開催ですが、自分の勉強したい部分を選んで申し込みできるところがとてもよいです。

現在は家でクロッキーカフェの動画などでクロッキー練習をしつつ、時間とお金に余裕のある時に近くのクロッキー会に参加したりしています。

あとシャルル・バルグの本でドローイング練習したり。

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あと技法書で定番のルーミス先生はやっぱり勉強になる。


■新しいジャンルへの挑戦

11月のコミティアでは、ずっと描きたいと思っていた旅行記漫画をようやく形にできました。

文章、漫画に関わらず旅行記が大好きな自分。けれど「自分を漫画に描く」という事にずっと苦手意識があり「旅行記漫画、いつか描いてみたいなあ…」と思いつつ何年も過ぎていました。

そんな中、今年の6月に行った台湾旅行がとっても楽しかったので一念発起して挑戦してみる事に。

まずは漫画仕事が忙しく、ここ2〜3年停止していた同人活動を再開。コミティアに旅行ジャンルで申し込みました。本の構成を考え、ネームを作り作画して…実際描き始めると、やはり創作漫画とは書き方や見せ方も異なるエッセイ漫画。楽しくも難しく、色々と勉強になりました。

旅ネタはまだまだあるので、旅行記漫画は同人誌でしばらく継続して描き続ける予定です。写真orイラスト+文章で構成した旅エッセイ本とかも出したい。

また、今回は自分(にしうら染)と囃子屋さん(夫)が主人公のエッセイ漫画形式にしましたが、創作キャラが主人公の旅漫画も描いてみたいなあ。


2019年を振り返って

仕事量と収入は少なかったですが、時間をとって旅や勉強などのインプットや新しい事への挑戦を中心にした事で、個人的には得るものがとても多い一年になったと感じています。ゲーム会社で社畜していた時の貯金があってよかった…。

あとありがたかったのが、年内の仕事のペースを落としてインプットに時間を使う事について話したとき、家族や友人、仕事先の担当さんも皆「すごくいいことだと思うよ」と背中を押してくれた事。漫画家をここまで続けられたのも周囲の理解と協力があっての事だと思うので、それを忘れないようにしたいです。

出版不況で業界の形が変化しつつある今、いつまで仕事として漫画を続けられるかは自分にもわかりません。ただ、自分の望む形での漫画の仕事が無くなって転職しても、創作活動自体は可能な限り長く楽しく続けて行きたい。技術的にも停滞せずに成長し続けたい。そのためにどうしたらいいか、を漫画家10年目の節目を前に改めて考えて動いた一年でした。


2020年にやりたい事

・新しい作品を連載する

・旅行記同人誌をコンスタントに出す

・絵の練習を続ける

・隙があれば旅に出る

今年の目標はシンプルに上の4つです。2019年に勉強したり長めの旅をして描きたいことがとても増えたので、今年はそれをどんどん形にしたい。


最後に

2010年9月から今まで漫画を描き続けられたのも、作品を読んで応援して下さる方々がいるからです。いつも本当にありがとうございます。

皆様にとっても2020年がよい年でありますように。

にしうら染