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金色日記〈第2話〉秘密の花園

うっ…これが中年センチメンタルジャーニーってやつか。至極、憂鬱な1週間を過ごしてしまった。わけもなくズシンと心が重たい。天井のしみを見ると余計に悲しくなった。

そんな時もあるさね〜。と自分を慰める。

40もとおに過ぎているというのに、いまだに「家出したい」思いに駆られる。旅がしたいとも違う。思いが思いのほか重いのが、憂鬱の正体なのかもしれない。

思いきって吐かせてください!
母親の私、妻である私ではない、個の私に完全に戻れる場所が必要なの。誰からも見張られない、私だけの「秘密の花園」が欲しい。

運転免許証にメガネ認定の判を押された視力0.3の女豹が、眼光を光らせ、秘密の花園を計画しているだなんて、読者以外は誰も知らない。

秘密の花園と言うと、触れてはいけない怪しげな場所みたいだけど、違う!と予めお伝えしておこう。金継ぎと絵や工作などの創作活動をするアトリエとして健全に使いたい。それから、静かに創造を慈しむ時間を過ごしたい人向けに、アートテラピー的な喫茶をひっそりと人知れず開くのも密かな夢だ。

花園にまつわる話をひとつ。
忘れもしない多感な思春期16の夜。親と喧嘩して家を飛び出した。何も持たず祖父母の暮らすマンション「花園プリンスハイツ」まで闇雲に歩いた。そのまま高校生活が終わるまで、祖父母のもとで甘えに甘えて暮らした。

そういえば家出デビューは、わずか2歳の時だった。家出先は、いつも母が連れて行ってくれた若草公園だった。私にとって「家出」は、自立したい心の現れだったのかもしれない。


花園と家出話で、ずいぶんと遠回りしてしまった。女という生き物はさ!さて金継ぎ、第二工程へいきませう。

凸削る作業

割れた茶器のパーツを接着し、完全に乾くのを待ちに待って1週間。ダンボールから茶器を取り出すと、カッチカチにしっかり接着されていた。接着部分からはみ出したカッチカチ(固まった麦漆)を、カッターもしくは目の細かいやすり、または彫刻刀を用いて削る。

※麦漆…水と練った小麦粉と本漆を混ぜ合わせたペーストで、割れの接着剤として利用する。

老眼か否かを試される

あー好きだな、この作業。
用心深く要らない部分を取り除いて、きれいに整えることに快感を覚える。器を傷つけずに優しくね。耳掻きの所作とどこか共通していた。

細かい作業をしていると、つい眉間にシワが寄る。シワを増やしたくなければ、まぬけ面で作業を行うが吉。リラックス〜。


第三工程へ進む。

凹埋める作業

欠けた部分は、パテで埋める。パテの材料は、砥の粉と木粉と本漆。パテ埋めが一番面倒な作業かもしれない。「薄くパテを塗って、1日以上乾かして、削る」を何度も繰り返す。傷口が大きいほど癒えるのに時間がかかるのよ。

大きめな欠け。埋めるのに何日かかるやら…


つくづく金継ぎは、早く結果を求めたいタイプの人間にとっては苦痛な作業だと思う。プレイに派手さがなく、盛り上がる場面が全くない。楽しいとか楽しくない、のジャンルじゃないの。作業中の感情は無に等しい。

漆と金で強く華々しく施された器が目の前に現れる日を夢見て、地味にコツコツと作業を進めるほかないのよ。そうよ!これこそが、ドリームズカムトゥルーの心得なのかもしれない。


まだまだ、つづく。

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