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第二十七話「失業保険終了まで、あと307日」2024年7月3日水曜日 快晴

 2回目の受給認定日。受付時間は9:30から10:00と決まっている。罰則はないが時間くらいは守りたい。
 例によって、運動不足解消のため30分かけて歩くことにした。曇り空だが朝から気温も湿度も高い。じっとりと粘つく空気が汗を誘う。
 二階に行き、認定の書類の確認を受ける。アルバイトを3つ掛け持ちしているので、同じ書類が3通。煩雑だ。
 担当したのは感じのいい若者だ。3通の書類を確認し、不備のある部分を丁寧に説明してくれる。
 隣のブースでは、認定条件に満たない受給者と担当者の不毛なやりとりが続いている。
 認定日のインターバルは4週間。この間に2回以上の求職活動をしなくてはならない。活動の定義は、実際に企業側やハローワークなどの公的機関との接触である。インターネットの求人媒体を閲覧しているだけでは求職活動とはならない。そこを理解していない受給者が窓口担当者から強い口調で繰り返し説明されている。
「だ、か、ら、ですね。インターネットで検索、閲覧してるだけでは求職活動とは認められないんです。今日このままだと認定はできません。一階の就業窓口で相談・紹介を受けてください。それで、認定できますから。それとですね、4週間後にまた認定日となりますが、それまでに2回以上の応募や相談の実績がないと、認定とはなりません。今から一階で相談を受けていただきますが、それは今回の認定のためです。次回の分ではありませんからね」
噛んで含めるように、丁寧に。しかし語尾は強い口調になっていた。
 当事者二人には申し訳ないが、隣で聞いていた私は少しニヤついていた。私の想像していたハローワークの風景だったからだ。これだよ、これ。これこそがハローワークだ。
 私は、認定日のついでに就業相談を受ける。これが1回目。そして、認定日前にもう1回。これで条件はクリアだ。
 私の場合は、就業より起業に傾いている。求人企業との接触はない。しかし起業も職を求めるという点では変わらない。相談員を指名しているのも、私の希望を一から説明するのが面倒だからだ。私はその間の起業へ向けての活動の経過を報告し、相談員は公共機関が行っている起業セミナーや起業相談窓口の情報をくれる。このやりとりをおよそ2週間に1回やっている。
 そうこうしているうちに、私の認定手続きが終了した。10日までに支給されると説明を受けた。金額も提示された。額は少ない。アルバイトを掛け持ちしているので、当然無収入の日は少なくなる。金額の少なさは致し方ない。アルバイトのない日は、ワークショップやシェアリングコーヒーショップ出店の準備に宛てている。その日が支給該当日となるのだから感謝こそすれ、文句はない。
 受給者証には毎回、支給額と支給日残日数が記載される。
 残日数は307日。私が悩み、行動できる日数でもある。

 『失業保険終了まで、あと307日』

 昔の名作SFアニメの言い回しを使えばこうなる。
 残りの307日をどう使うか。それがその後の人生を大きく変えるはずだ。

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