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第三十一話「起業セミナーと焙煎体験」2024年7月13日土曜日 晴れ

 世間は三連休の初日。失業者にとっては毎日が連休。という呑気な状況でもない。
 8時にアラームが鳴る。今日は区が主催する無料起業セミナーの初日なのだ。
 時節柄リモートで行われる。それでも髭を剃り、清潔感のあるTシャツに着替えておく。間違っても下は寝巻きのままなんてことはしない。
 定刻に始まった。内容は初回ということもあり、起業にあたっての準備の準備というようなものだった。すでに起業した者、起業を志し準備している者にとっては復習やおさらいのように感じるだろう。しかし何の装備も無しに失業のジャングルに飛び込まざるを得なかった私には、有り難い道標だった。
 どうして起業するのか?その理念は?業態は?商圏は?ターゲットは?
 曖昧なままは無しだ。開業届を出すこと、法人化することがゴールではない。起業して自分と他者を幸せにすることがゴールなのだ。そして、それは引退まで続けなければならない。起業、経営とはそのようなものだ。
 言葉を変え、スライドを変えながら、講師は繰り返しそれを説く。ワークと小さなディスカッションを繰り返して、起業の準備の準備を掘り下げていく。

 今日はなかなか忙しい。午後には出店予定のシェアリングコーヒーショップで小型焙煎機を使った焙煎体験イベントがある。私は電車を乗り継ぎ会場となる店に向かった。
 焙煎の見学をしたことはあるが、実際に焙煎したことはない。インストラクターのガイドつきとはいえ、自分でパラメータをいじれるのは嬉しい。
 トースターのように小さな機体は、業務用の大型焙煎機をそのまま縮小した姿だ。小さくても重厚で、パラメータを操るタッチパネルタブレットが接続されている。玩具感は全くない。
 豆の焙煎の進み方を確認するサンプルスプーンやシリンダー内を観る観察窓まで着いている。子供のように胸が躍るのが自分でもわかる。
 緑や黄色の生豆は徐々に色づき、香ばしい香りをまとっていく。私は、生豆が私の知るコーヒー豆になっていく様を見守っている。

 自分を掘り下げる工程。
 自分を変質させる工程。 

 今、私はどこにいるのだろう。

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