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第十一話「企画書」2024年5月16日木曜日 晴れ

 仕事をしていないせいか寝つきが悪い。この先どのように生活していくのか、多くの人に助けられ甘えさせてもらっているがこのままというわけにもいかない。
 船長がカフェ事業を再開するまでアルバイト生活とするのか。
 個人事業主や法人という独立を選ぶのか。
 独立とするなら店舗型にするのか、講師業やコンサルティング業にするのか。何れにしても顧客を掴むスキルや営業力が自分にあるのか。
 今年、52歳になる。長く働けてあと20年だろう。体力と判断力は今でも不安なくらいだ。残りの人生を考えれば、何か始めるにしても、その終い方も同時に考えなくてはならない。もしくはすぐに畳めるようなコンパクトな事業が良いかもしれない。
 そんなことを布団の中でぼんやりと考えていた。考えていても布団の中だ。同じところをぐるぐると回っている。
 モヤモヤとしたアイデアとも夢とも言えない思いつきではあるが、企画書という形にまとめてみることにした。掴みどころのないモヤモヤを少なくとも現実に引きづり出すことにはなる。誰かの目に触れさせ、意見やあるいは忠告かもしれないが生身の反応を得ることができるだろう。

 企画を練るにあたり、明確なことを挙げた。
・金はない。かけられる経費はない。
・手持ちの道具、施設でできること。
・船長の焼き菓子やケーキを使うこと。売上増や新規開拓に繋がることが望ましい。
・大儲けする必要はないが、赤字は許されない。
そして
・今現在の私のスキルでできること。この経験が自分のこれからの生き方へのトライアルになること。
が重要だ。

 予算無し、トライアル、手持ちの道具、施設。
ここからイベント出店などの店舗型ではなく、講師業のほうが現実的だと判断できる。
 幸い、バリスタの資格を持っている。有資格者というだけで特別な知識や人脈や有名な大会のタイトルを持っているわけではない。むしろ凡百以下のバリスタだろう。
 しかし、カフェ事業のコーヒーのレシピ開発、提供オペレーションは私が構築した。閉業してしまったが『船長のカフェのコーヒー』であれば、世界で私が一番詳しい。
 よくある「美味しいコーヒーの淹れ方講座」にしてしまうと大仰だか、あるカフェのコーヒー担当者が自店のコーヒーを紹介している、というイベントであれば、権威的な知識もタイトルホルダーである必要もない。
 閉業してはいても常連のお客様はいた。その方たちへの再アプローチにもなる。
 同時に、船長のお菓子の直売所を併設すれば販促にもなるだろう。
 イベントは他にもバリエーションを作れる。私はソムリエでもあるのだ。ソムリエはバリスタ以上にへっぽこだが、それでも有資格者であることに嘘はない。お菓子とワインの提案も可能だ。
 会場は、カフェのあった私鉄沿線に伝手があった。相場よりも安い。会場費はイベントの参加者に参加費として上乗せすれば良い。上乗せしても問題ないくらいの低価格だ。何せ講師へのギャラは無いのだから。
 十分ペイできる。大儲けはできないが、赤字にはならない。トライアルには十分だ。

 まとまった企画書をN美さんにも目を通してもらった。
 彼女は賛成してくれた。良かった。
 次は船長へのプレゼンだ。





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