Chap1.2 | 日用消費財編 ~メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ~

この記事は、理系の大学院を卒業し、現在広告代理店のマーケティング職に従事している筆者が、
“現業で実践可能&ロジカルな広告マーケティングのノウハウ”を発信するコトを目的としています。

今回扱うテーマ

広告マーケティング ”日用消費財編”の連載第2回目である今回は、
「メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ」
というテーマを扱ってみようと思います。

めちゃくちゃ難しい横文字ですよねwww

しかし、その内容はとにかくシンプルかつ分かりやすい内容になっていますので、安心して最後まで読んで頂けると幸いです。

では、早速本題に入っていきます。

カスタマージャーニーにおける潜在行動と顕在行動

Chap 1.1の復習

本題に入る前に、前回扱ったChap 1.1の内容について軽く復習しておきます。

Chap 1.1のテーマは、消費者のカスタマージャーニーでした。

日用消費財におけるカスタマージャーニーは大きく、
ブランド認知→思い立ち→実購入
の3つのフェーズに分けられると話しました。

今回は、そのカスタマージャーニーが”思い立ち”以前と以後で大きく性質が異なる、というコトからスタートします。


ブランド認知~思い立ち直前

Chap 1.1でお話した通り、ブランド認知のフェーズは日常生活のあらゆるシーンが該当します。
炭酸飲料の場合、テレビCMを見た時、YouTubeの動画広告を見た時、駅で電車を待っている時の隣の人が炭酸飲料を飲んでいる時、ドラマの主人公が家で炭酸飲料を飲んでいるシーンを見た時、久しぶりに実家に帰って冷蔵庫に冷えている炭酸飲料を見た時、・・・。
日常生活の中で、炭酸飲料ブランドを認知するシーンを数え上げるときりがありません。

一方で、全てのシーンで共通しているコトがあります。

それは、「全てのシーンにおいて、その瞬間に消費者は別に炭酸飲料を飲みたいと考えていない」というコトです。

考えてみると当たり前ですよね。笑
(しかし、この事実を無視して広告マーケティング施策を立案すると、ことごとく失敗に終わるケースがあるので注意が必要です。)

まとめると、ブランド認知~思い立ち直前では消費者のニーズは顕在化していない=ニーズが潜在的であるというコトです。

つまり、ブランド認知~思い立ち直前では、消費者はニーズを解消するために何か具体的な行動を起こすコトはなく、ここでの炭酸飲料にまつわる全ての事象は”消費者の頭の中”で起きています。

この連載では、ブランド認知~思い立ち直前において、消費者の頭の中で巻き起こる行動を”潜在行動”と呼ぶことにします。


思い立ち

思い立ちのフェーズで、これまでニーズが潜在的だった消費者が、はじめてニーズが顕在化します

炭酸飲料で考えると、
「今日めちゃくちゃ暑いし、喉乾いたな。コンビニ行ってキンキンに冷えた炭酸飲料買おう!」
「今日一日働きっぱなしだなあ。炭酸飲料でも買って一服するか。」
という瞬間が、それにあたります。

ここで、「炭酸飲料を買おう!」という思い立ちについて少し深堀りします。

みなさんが「炭酸飲料を買おう!」と思ったとき、まず頭の中で何を考えるでしょうか?

多くの人は、「シュワシュワした喉ごしが得られる冷えた甘い飲み物を飲みたい!」と考えるのではないでしょうか?

つまり、最初から特定の炭酸飲料ブランドを想起するのではなく、まずは炭酸飲料カテゴリ全体を想起するはずです。

そして、炭酸飲料カテゴリ全体を想起した次の瞬間、ブランド認知~思い立ち直前で認知した炭酸飲料ブランドの中から”購入検討リスト”を無意識のうちに作成します
(例:「今日の気分だと、三ツ矢サイダーかコカ・コーラかファンタかなあ」)

人によっては、思い立ちのタイミングで最初から特定のブランドを想起する場合があります。
炭酸飲料の場合、炭酸飲料カテゴリ全体を想起する前に、三ツ矢サイダーを想起する、などのコトを指します。
一方で、この事象の見方を変えると、その瞬間・その人にとって炭酸飲料カテゴリ=三ツ矢サイダー一択だった、と捉えるコトができます。
言い換えると、最初から特定のブランドを想起する人は、カテゴリ全体を想起していないわけではなく、三ツ矢サイダーがその人にとってのカテゴリ全体だった、と考えるコトができます。
もちろん、この人にとっての炭酸飲料の購入検討リストは、三ツ矢サイダーただ1つというコトになります。

「いやいや、炭酸飲料飲みたいって漠然と考えたときに、そこまで深く考えれてないよ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、炭酸飲料を飲みたいと思って商品棚の前に行ったとき、商品棚の前で何分も迷わないですよね。
それは、無意識の内に”購入検討リスト”を頭の中で作成しており、商品棚に並んでいる炭酸飲料ブランドの中から”購入検討リスト”に入っているブランドを選んでいるからなのです。

思い立ちフェーズにおいて、頭の中で起こっているコト


思い立ち直後~実購入

思い立ち直後~実購入では、既に思い立ちのフェーズが過ぎているため消費者のニーズは顕在的です。

炭酸飲料で考えると、
小売店の中で購入を思い立った人は、すぐさま商品棚の場所へ行き購入検討リストの中から無意識的に購入するブランドを選択します。
小売店の外で購入を思い立った人は、まずは近くの小売店や自動販売機へ足を延ばすことから始めます。

ここで重要なコトは、炭酸飲料購入の思い立ちの段階で、既に”購入検討リスト”を作成しているため、基本的に消費者は思い立ち直後~実購入において購入ブランドに関して深く悩むことはしない、という点です。

しかしながら、購入検討リストに入っているブランド群が、現在購入できる状態でない(例:三ツ矢サイダーかファンタが飲みたかったが、最寄りのコンビニではどちらも品切れ中だった)場合、再度購入検討リストの作成から始まるため購入ブランドに関して深く悩むコトもあります。

この連載では、思い立ち直後~実購入における消費者の実際の行動を”顕在行動”と呼ぶことにします。

カスタマージャーニーにおける潜在行動と顕在行動


広告マーケティングが扱う領域

自社ブランドを実際に購入してもらうために・・・

ここまで見てきたように、あるブランドが実際に購入されるまでには、思い立ちフェーズを挟んで潜在行動時期(ブランド認知~思い立ち直前)、顕在行動時期(思い立ち直後~実購入)の2つのステップがあるコトが分かりました。

それでは、自社ブランドが実際に購入される確率を上げるためには、我々に何ができるのでしょうか?

まず行うべきは、「自社ブランドを購入検討リストに入れてくれた消費者を、顕在行動時期において取り逃がさない」ように、小売店における配荷率を高める等の流通施策が挙げられます。
(※小売店における配荷率とは、全国の小売店に対する自社ブランドを取り扱っている小売店の割合のコト。
例えば、全国の小売店の数が100店舗だとして、自社ブランドを取り扱っている小売店が70店舗の場合、配荷率は70%と計算できる。)

また、小売店の商品棚で自社ブランドのPOP広告を展開する、などの販促施策によって実際に自社ブランドを手に取りやすくするコトも有効です。
(※POP広告とはPoint of Purchase advertisingの略で、小売店の商品棚で展開される、主に紙媒体の広告を指します。
スーパーの商品棚で、ある特定の商品が目立つように紙で囲まれてたりしませんか?
あの正式名称がPOP広告なんです。)

このように、流通施策や販促施策などを通して、自社ブランドを購入検討リストに入れてくれた消費者が、実際に購入しやすい状態を作るコトがまずは重要です。

バイロン・シャープ著の”ブランディングの科学”では、上のような状態を作り出すコトを「フィジカルアベイラビリティを構築する」と表現しています。

「フィジカル・アベイラビリティとは、ブランドの存在感が高まって買いやすくなり、多くの消費者に幅広く購買機会が提供されている状態を意味する。」

ブランディングの科学(バイロン・シャープ著)より抜粋


そして、フィジカルアベイラビリティの構築と同等に重要なのが、「そもそも、自社ブランドを購入検討リストに入れてくれる消費者を増やす」コトです。

つまり、潜在行動時期における様々なシーンにおいて、自社ブランドとの接点を創出しコミュニケーションを行うコトで、いざ購入の思い立ちが来たタイミングで自社ブランドを購入検討リストに入れる確率を高めるコトが重要です。

これこそが、広告マーケティングの本領が発揮される領域なのです。

バイロン・シャープ著の”ブランディングの科学”では、「思い立ちのタイミングで自社ブランドを購入検討リストに入れる確率が高まっている」状態を作り出すコトを「メンタルアベイラビリティを構築する」と表現しています。

「メンタル・アベイラビリティやブランド・セイリエンスは、ブランドが購買シーンにおいて想起されやすいことを意味する。」

ブランディングの科学(バイロン・シャープ著)より抜粋


そして、同書ではフィジカル・アベイラビリティとメンタル・アベイラビリティに関して、次のようにまとめています。

「マーケターの主たる仕事はブランドを買い求めやすくすることだ。そのためには他の何よりも、メンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティが重要だ。(中略)メンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティの両方を確立して初めて、ブランドは多くの人にとって買い求めやすい存在となる。」

ブランディングの科学(バイロン・シャープ著)より抜粋

つまり、日用消費財を扱うマーケターは、自社ブランドのメンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティを構築するコトが使命であり、広告マーケティングはメンタル・アベイラビリティの構築に重要な役割を果たすと考えるコトができます。

ここまでのまとめ


今後取り扱うテーマ

私が扱うのはあくまで”広告マーケティング”の領域になるため、”フィジカルアベイラビリティの構築方法”に関しては基本的に触れません。
(私よりも有識な方がたくさんいらっしゃいますので、その方々の著書等を読んで頂ければ幸いです。)

以降のテーマでは、「メンタル・アベイラビリティを構築するためには、実際にどのような広告マーケティング施策を行うべきなのか?」について考えていきます。

そのためには、Who(誰に?) / What(何を?) / How(どのように?)の3つの要素を考えなければなりません。

次回扱うテーマは ”Who(誰に?)" です。

それでは、今回の記事はここで終わらせて頂きます。
最後まで読んで頂いたみなさま、ありがとうございました。

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