瀬戸内の島で「何もしない」をした夏
#忘れられない旅
20代最後の夏、逃げるように瀬戸内へ旅をしたことをよく覚えています。
その年、僕は異動先の職場で激務に追われて、心身ともにかなり擦り減っていました。
前の職場から仲良くしてくれていた先輩と食事に行ったある日、
「どこか遠くへ旅に行きたいですね~」と現実逃避していた僕たちは
勢いのまま近くの旅行代理店で夏の瀬戸内旅行を予約しました。
とにかくのんびりしたかったのと、細かなことを計画する元気もなかったので、航空券と宿泊するホテル以外は何も決めずにノープランで出発したような記憶があります。
美味しそうなものを見かけたら食べてみる、景色がよさそうだったらのんびり眺めてみる、そんな気ままな感じでとにかく日常から離れたくて旅へ出ました。
天気にめぐまれた旅の最終日、「瀬戸内しまなみ海道」を通って島めぐりをすることにしました。
「瀬戸内しまなみ海道」で繋がっている島々にあまり事前知識もなかったので、あてもなくドライブを始めてみたら高速道路からの眺めがとても素敵でした。
いくつかの島をまわって、僕たちは海沿いのアイス屋さん(もしかしたらジェラート屋さんだったかもしれない)に立ち寄りました。
オーダーしたアイス(たしか味は「塩バニラ」でした)を受けとって店の前で腰をおろしたら、ふと景色に心奪われてしまいました。
アイスを片手に、ただ島並みと海を眺めていました。
「何もしない」という時間の過ごし方を味わいに、瀬戸内まで来たんだなぁと感じました。
おそらく時間にして小一時間だったと思います。
そのままボーっと海を眺めていました。
帰りのフライト時刻を無視して海を眺め続ける勇気はなかったものの、短い時間でも幸せな時間を過ごせました。
先輩にも「なんだかすっきりした顔してるね」と言われました。
いつかまたこの景色を眺めに行きたいと思っています。
どこの島だったかよく覚えていないし、まだアイス屋が残っているかもわからないけれど、「何もしない」ことの幸せを感じにいきたいと思います。
讃岐うどんを食べたり、道後温泉に行ったりと他にも楽しいことのあった瀬戸内への旅だったけれど、僕がはっきりと覚えているのは島から眺めた景色で、次にまた見に行くまで忘れることは無さそうです。