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「みんな違っていい」を叶える難しさ:ドキュメンタリー映画【チョコレートな人々】

2021年 日本民間放送連盟賞 テレビ部門グランプリ受賞作品「チョコレートな人々」を観てきた。

全国に52の拠点を持つ「久遠(くおん)チョコレート」
百貨店の催事やバレンタインフェアでは、有名チョコレート店と肩を並べる愛知県豊橋市のチョコレートブランドのドキュメンタリー。

久遠チョコレートで働く人たちは、心や体に障がいがある人、シングルペアレントや不登校経験者、セクシュアルマイノリティなど様々なバックグランドを持つ人々。
福祉と経済、生きがいと生産性、さまざまな人と共に働くよろこびと、その難しさ……理想を追い求めるチョコレートブランドの山あり谷あり、きれいなだけじゃない19年を描く、東海テレビドキュメンタリー劇場第14弾。

映画【チョコレートな人々】website

この映画は、いま話題の「多様性」を描いたキレイごとの物語ではなかった。「みんな違っていい」を叶えることがどれほど難しいか、その上で最低賃金以上を支払うための経営がいかに難しいかが丁寧に描かれている。

「失敗してもいい」「できなくてもいい」けれど、お客様からの信用は失いたくない。そんなジレンマ、葛藤。働くとはどういうことか、わたしたちはどういう社会を目指すのか、何を実現していきたいのか。深く深く考えさせられた。

障がいを持つ人が一般企業で働くことは、狭き門な上に軽度の障がいであることが多い。多くの障がい者は、作業所などで内職のような軽作業に従事するか、働き口がなく家にいるのが現状だ。しかも、最低賃金を大幅に下回る給与(数千円/月)しか支払われないので、自立するのは難しいという現実がある。

心を打たれたのは、久遠チョコレート代表の夏目浩次さんの生きかた。失敗もあったかもしれないけれど、19年にわたって障がいを持った人たちやその家族の尊厳に、こんなにも情熱を持って寄り添ってきた人はいないのではないか。

そして、この19年の軌跡を丁寧に取材してきた東海テレビさんはすごい。久遠チョコレートの従業員1人1人の個性や抱える生きづらさを掘り下げつつ、数々のトラブルや問題をどう乗り越えてきたのかを事細かに描いていた。

19年前、脱サラして小さなパン屋を始めた26歳の夏目さん。その時も障がいを持ったスタッフと3人で事業を立ち上げていた。その当時の取材記録も交えながら、エピソードが深掘りされていく。

当時障がいを持ったスタッフの作業スピードが遅いことがきっかけで、彼女は店を辞めることになる。できないから排除した訳ではなく、頑張ればできる!みんなで力を合わせれば乗り越えられる!みたいなノリだったと思うけれど、「人に仕事を合わせる」というよりは「仕事に人を合わせる」考え方(2000年頃はごく当たり前の発想だったと思う)は、皆ができることができない彼女を追い詰めただけだった。

この出来事が、久遠チョコレートの「仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせる」カルチャーやそのために知恵を絞って試行錯誤するアクションに繋がっているのだと思う。

彼女がパン屋を去ってから17年が経ち、その彼女が母親と一緒に久遠チョコレートの店舗を訪れて夏目さんと再会するシーンがある。街で見かけても声をかけられないわだかまりが、お互いにあった。

そこで夏目さんは、彼女に謝った。
「あの時は、本当にごめんな」

わたしは誰も悪くないと思った。
2人とも同じ方向をむいていたはずで、経営者と従業員という立場の違いと、目指していたものの大きさが少し違っただけだ。それぞれの正しさが行き違って、お互いに傷ついた。もう涙なしでは観れないシーンだった。

夏目さんが目指すものは明確で、障がいがあっても会社で働ける、一般の人と同じ給与で働ける社会にすることだ。障がい者に対する理不尽を是正して、フェアな社会にしたい。その想いはものすごく分かる。けれど、けれども。。。

「みんな違っていい」を叶えることの難しさ。
この語られていないモヤモヤに、大事なことが詰まっている気がする。福祉と経済、生きがいと生産性。深く考えさせられる、素晴らしいドキュメンタリーだった。

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