偽物友情
高2の頃
「あなたの席の左の子、カンニングしてなかった?妙に右ばっか見てたんだけど解答見られてる感じした?」
テストが終わり、お手洗いに行こうとした時に試験監督の教師からそのような事を言われた。突然の事だったので、ひどく驚いた。
というか、それをあんたが判断するんでしょ、ただ座ってるだけなら何の意味もない、何のための試験監督だよ、とたくさんの攻撃的な言葉が浮かんできたが、ここでの反抗的な態度は基本的にプラスにはならないし、クラスメイトからやばいやつ認定されるなんてのは御免だった。無難な人間で通っている手前、そんな事は口に出せるはずもなかったし、そもそも立場が上の人間に歯向かっていくほど度胸があるわけでもなかった。
「いや、多分そんな事ないと思いますよ。全然気付かなかったです。」
別に自分が解答を盗み見た訳ではないのに、そう伝えるのはひどく緊張し、喉の渇きさえ感じた。次のテストが始まるまでの10分間は何だかモヤモヤしていたけれど、いざ試験が始まるとさっきまでのモヤモヤが嘘のように消え、目の前の問題を解く事だけに集中できた。
自分の左の席は男の子の席で、彼のことは高校1年の頃から知っていた。そのため、そこそこ仲が良かったし、信頼もしていた。
試験監督の教師の言葉を否定したのは、面倒な事は極力避けたいという気持ち、1秒でも次のテストの対策を行いたいという気持ち、友達の疑いを晴らしたいという様々な気持ちが混在していた。被害者の立場である自分がカンニングされたと言えばカンニングは実際に行われた事になるし、されていないと言えば無実への強力な証拠になる。つまり、私の匙加減ひとつで彼はどうにでもなった。この場面において大きな力を握っている事を瞬時に理解した私は、彼を無実にするルートを選ぶのにさほど時間はかからなかった。
結果、彼は監督者から特に注意を受ける事もなくテストを終えた。
~数日後~
自分、彼、友達のA君の3人で教室で喋る機会があった。
いつものように喋っていると、ふと思い出したようにA君が
「そういやお前カンニングしたんだよな?」
と彼に言った。すると彼は、
「おい、被害者の目の前で言うなよwwやめろよw」
とはにかみながらそう言った。その照れ隠しの裏には色んなものが隠れているのが見て取れた。それは突然悪事をばらされた事に対しての怒りだったり、チラチラとこちらの様子を伺い、被害者の前でどう振舞ったらいいか分からず狼狽した表情。それらに加え、どう弁解すべきか脳をフル回転させて考えている顔だったり、実に様々だった。一度に多くの事を思考するもんだから、顔の筋肉も平静を装う事なんて出来やしない。事実、彼の顔は絵に描いたように引きつっていた。
だが、私が激昂していない事が分かった途端、すぐさまいつもの調子に戻った。
ホッと安心して表情を緩めたのも含めて、何から何まで全部不器用だなぁと思った。
その時の私は、怒りに支配され狂ったように相手に向かって罵詈雑言を浴びせる訳でもなく、カンニングは悪事であり成敗せねばならない!こらしめてやる!と自らの膨れ上がった正義感を相手に叩きつけて潰す訳でもなく、自分が守ろうとした、友情とは名ばかりのものにただ打ちひしがれるだけであった。
チラッと解答を見たとしてもそれは知識にはならず、その人の脳みそは成長しないため、どうぞお構いなく勝手に何回でもやってておくれといつもは思うのだが、今回は違った。
自分が守ろうとした"彼との友情"がこんなにも浅く、低俗で下等なものだったという事実に落胆した。こんなに醜いものを"友情"と定義し守ろうとしていた事に強く後悔し、恥じた。ズルをごまかそうとしてヘラヘラしている彼に対しても腹が立った。
何もかもが気に食わなかったが、かといって何か嫌味のひとつでも言う気にはなれなかった。
友達である上に、ましてある程度は仲が良かったので、まさかカンニングはしないだろうと心のどこかで思っていたし、信じていた部分は確かにあった。そうであって欲しかった。
友達であったとしても勝手に自分が期待するのが悪いのかな、とか色々考えてしまう。
何にも期待しないという選択をすると今よりも格段に生きやすくなのは想像できるが、その分楽しさや嬉しさも半減してしまうのではないだろうか。
何にも期待しないというのは賢い選択なんだろうけど、何かに期待しても間違いじゃないよと肯定してくれる世界の方が個人的には魅力的だと強く思った。
今回この文章を書いた主な理由としては、文章を上手に書けるようになりたいと思った点、「一番恐れるのはこの怒りがやがて風化してしまわないかということだ」という言葉をどこかで見て確かにそうだなと共感した点の2つが挙げられる。
この文章の中盤あたりで「正義感」という言葉が出てきたと思うが、もしあの場面で私が自らの正義感を振りかざし、クラス中を味方につけて一斉に彼を非難し始めたらどうなるか考えてみて欲しい。
今SNS上で繰り広げられている事と本質的には何も変わらない。この事柄について自分含めてもっともっと深く考えるべきだと思う。
過去の出来事に対して熱くなり見苦しい部分も多々あったと思いますが読んで下さりありがとうございました!
感想等ありましたら伝えて頂けるとうれしいです。
おわり
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