№３ わたしのなかのわたし

わたしのなかにはわたしがたくさんいて
わたし１は今日はのんびりしたいといい
わたし２は今日は走りにいこうという
わたし３はあの子の前では聞き上手になって
わたし４はあの人の前では弱音をはいている
わたし５はあの方の前では背筋を伸ばして真面目な顔をし
わたし６はあいつの前ではただの馬鹿になっている
わたし７は姪っ子の前では観察眼をはたらかせ大人になってみせ
わたし８は猫の前ではとろとろの甘々になっている
わたし９は苦手な彼の前では表情の固い人間になってしまうのに
わたし10は大好きな彼の前では10代の少女のように笑っている

わたしをわたしたらしめているのものはなんなのだろう
みんながよくいうホントのわたしなんてどこにもなくて
きっとからっぽなわたしが真ん中にいるだけなんだ
だけど同時にどれもこれもわたしはわたしで
わたしのバリエーションが増えれば増えるだけ
わたしは豊かになっていく
わたしの呼吸は楽になっていく
わたしのバリエーションが増えれば増えるだけ
わたしは寂しくなくなった

愚かなわたしも
弱いわたしも
ときどき賢さを発揮できるわたしも
ときどき強く優しくなれるわたしも
あなたが引き出してくれるわたしも
ぜんぶおなじだけ愛してあげよう
わたしをわたしたらしめるものなんてどこにもない

わたしは、きみ、あなた、彼女、彼、たくさんの人との関係のなかで
生まれては消えていく