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オリオンの三ツ星 

冬の夜空に浮かぶ
オリオン座の三ツ星
ポケットに忍ばせて
走り出した

脇目もふらずに追いかけた
ふり絞った言葉は
行き場を失って
傷跡だけを残して
記憶の彼方へと消えていった

大人になった君は
薄くなっていく傷跡とともに
ポケットに忍ばせたオリオンも忘れて
いつの間にか追い越していた

あわててこの町を飛び出したとき
きっときっと
たくさんの忘れ物をしてきたんだ

いっぱい走ったあとの この町で
置き去りにしてきた物を
ひとつずつ
探してまわってみたけれど
どれもこれも色あせてしまって
目の前の鮮やかな景色に全くなじまないんだ

そうやって君はふと思い出したように
ポケットのなかをまさぐってみるけれど
そのなかにあるはずもない

探すのをやめて見上げてみてごらん
あの頃のオリオン座はいまも夜空に輝いている

記憶はうまく薄れていくのに
痛みの感覚だけはいまも歴然としていて

メランコリアに誘い出されて
明け方まで 息をひそめて
星が消えるのを待っていた

大人になった君は
追い越したはずの君に会いにきたけれど
永遠も絶対もないことを理解したはずなのに
その再会の苦々しさと愛おしさに
戸惑うことしかできないでいる

あの頃感じた永遠を
信じ切れなかった罰を受けているかのように
ポケットに突っ込んだ君の両手は
相も変わらずさびしく空を掴んだままだった

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