見出し画像

66. ありがちな岐路

 年齢とともに自分の「市場価値が目減りしていく」ことに耐えきれず、ついに重い腰を上げて転職活動を始めた。資本主義の圧に負けた。悔しい。
 25までに結婚、30までに専門分野をつくる。前者はもう無理なので、後者だけでもどうにかしたい。18時になって半額シールを貼られるスーパーの食品のようで、控えめに言ってもかなりげんなりしてしまう。

 「大体は1ヶ月半くらいで決まります」
 エージェントのお姉さんにそう言われて、たじろいでしまった。たじろいだ自分にも驚いた。まだ何も決まっていないのに、確かに名残惜しさがあった。
 現職が嫌いではなかった。職場の人々は大概優しく、上司は人遣いが荒いところはあっても、全員が真面目にことに向かっていた(他の職場のことはわからないが、これは結構ありがたいことなのでは、と思っている)。社風なのか、比較的風通しが良く、不正も陰湿な行いもほぼなかったように思う。待遇にもそれほど大きな不満はない。安心して暮らしていければ十分。確実にこき使われてはいるものの、毎日出社して駆けずり回り、他人の面倒を見る(尻拭いも含めて)のも全く苦痛ではなかった。
 ただこの会社にい続ければ、きっと老いるまでここから出られないだろう、という不安に常に苛まれた。やりたいことがなくても、不安はゴリゴリに感じるので理不尽だなあと思う。労働の時だけパブロフの犬の脳を入れてほしい。志が限りなく低い。

 使えそうな転職サイトに一通り登録し、オファーやスカウトに片っ端から目を通す。まともそうなエージェントと一日に3件面談をしてもらう。大まかな経歴を書き出す。これだけで達成感を感じるが、実質何も進んではいない。自分の選べる仕事の少なさに、さらにもう一段階げんなりしただけで一日が終わってしまう。どんより。
 日本経済は緩やかに終わっていき、私のキャリアも緩やかに萎んでいく。桜は散り際が美しく、菊も枯れかかっているのが趣があって良いのに、人間はただただどうしようもない。どうしようもないなりに、せめて人のためになることがしたい。気力と能力はいつも足りなくて、人生ばかりが有り余る。茫漠とした残り時間に目がくらむ。余白を埋めるにはどうしたらいい?

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?