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未来の人に残す森を買ったはなし

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先日、夫婦でこの森を買った。
広さは74,000㎡、東京ドーム約1.6個分。
電気もガスも水道もない。
この森をこれからどうするのか、未来の人に残すとはどういうことなのか、
それを周囲の人に説明する気はほとんどなかった。
ビジョンを語ったり、目標を掲げてアピールしたり、そういうことをするより前に「思ったら淡々とやる」が性に合うからだ。
自分の内側の声を拾い上げるのも、誰かと語り合っていると聞き取れなくなり立ち止まってしまうから、一人で黙々と考え結論を出す方が良い。
それだから、周囲の人は「何を考えているんだろう?」と訝しみ、動き出したら「そんなことを考えていたの?」と驚くかもしれない。
それでも結構、私は次に次に進みたいのだ。

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でも、森を買ったとき、ある人たちの顔が思い浮かんだ。
それは、私が次のステージへ進むため個人事業をたたむと決めたとき、
あなたらしいと応援してくれた人、涙を堪えて別れを惜しんでくれた人、事業をたたんだ後も時々連絡をくれる人たちだ。
周囲の人に、自分はこういう人間だとアピールするつもりはないけれど、そういう人たちには誠実でありたいと思った。
すべての人に会って話す機会はないし、手段がない人もいる。
だから、これを見てくれたら、そう思いここに書いてみる。

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ことの発端は30代中ごろ。
当時は自然ガイドを生業としていた。この仕事をこのまま続けていくのか?私はどうしていきたいのか?漠然とした疑問が頭をもたげた。なぜかは分からないが転換期が来ていると感じた。小さな出来事が積み重なったのだろう。そして、2018年9月6日、北海道胆振東部地震による全道ブラックアウトを経験。日本各地で相次ぐ大規模な自然災害、自然環境の悪化、世界情勢の急速な変化、やはりこのままではいけない、という気持ちに火がつく。

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それと同時進行で、理解のある夫と出会えていた。二人で話し合い、広い森を購入し、そこで自然観察の楽しさや奥深さを伝えられ、訪れた人が面白いと思える何かをその人自身で見つけられる空間を作り、レンタルスペースとして貸し出そうと話しがまとまる。
そうなれば、ガイド業ではなくなるけど、ガイド時代とやってることは一緒、私のライフワークは継続できる。森を守りながら、それを資源にある程度エネルギーを自活できる。いいことづくしだ。

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そうして36歳で始まった土地探し。
しかし、土地探しを始めてしばらくして気づいた。
整備して住めるようになった森は、年を取ったら自然関係の道に進む若い人に譲渡したい、自分はそう思っているのだと。
つまり、全財産つぎ込んで整備した森を生きている間に、次の次の世代くらいの人に明け渡そうというのだ。
買う前から手放すことを念頭に土地探しをする奴があるかと、呆れるかもしれないが、そう思ったのだから仕方がない。
未来の人は今より悪化した自然と向き合わなければならない。
だから、未来の人へ少しでも良い環境を残したい。
自分たちだけ楽しんで「ハイ、おしまい」にしたくない。

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ある人は「個人版、ナショナル・トラストのようだ」という。
またある人は「村上(私の名字)演習林だ」という。
確かにそれに似たところはある。
でも、森を譲る時、森はこうすべしと注文をつける気はない。
私が取り組んできた事を引き継いでもらうつもりもない。
受け継ぐ人の行動や考えを縛りたくないし、縛らなくても大丈夫。
私とフィーリングが合う人なら、森を大事に使ってくれる自信がある。
なんせ繊細な私のストライクゾーンは針の先ほどに小さいから。

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話しは未来から今に。
森には遊歩道をつける。
我々夫婦が住む家の他に、ゲストが一時滞在するための小屋を作る。小屋には、私が持つ自然関係の資料や数百冊の図鑑や書籍を置く。(森を譲渡するときはこれらも丸ごと渡す)
私は空間を提供するだけで、介入はしない。
そう、ここは一組だけに開放されるレンタルスペース。
森も小屋も貸し切りだ。
散策、ベンチでうたた寝、テイクアウトしたお弁当を持ち込んでランチ、双眼鏡を使ってバードウォッチング、勉強、本棚の本を閲覧、何をして過ごすかはゲスト次第。
それでも、もし必要なら、私が喜んで森を案内しよう。

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年に数回は、10代の学生を無料でこの空間に招待したい。
私がそうであったように、自然関係の道に進む時、相談できる人は少ない。志ある人が、ここで何かヒントを得られればと考えている。
その時の経費はレンタルスペースの収益の一部を充てるので、レンタルスペースを利用した人は、間接的に若者を応援できる仕組みだ。

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私自身の体のポテンシャルから考えて、元気に野良仕事ができるのは60歳くらいまでだろう。よくて65歳だ。それまでにこの森を整備して、ゲストとこの空間をシェアして、70歳譲渡を目標に若手に譲る準備をする。
あと半年で40歳になる。時間はあるが余裕はない。

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私の人生の手仕舞いはようやくスタートラインに立った。
これから終わりに向けてどんどん進む。
その道を進むのは、義務感でも正義感でも使命感でもない。
ただただ「面白そう」と思う気持ちから。
内容が内容なので、多くの人に利用して欲しいとは思わないけど、自然が好きな人が私たちの森を訪問することは大歓迎だ。
ここには書ききれないことが山程あるから見に来て欲しい。
あなたとの出会い・再会を心より願って。

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