編集者視点から一般演題(ポスター)で感じたこと 日本公衆衛生学会総会レポート2
第83回日本公衆衛生学会総会レポートの続きです。
ポスター展示では、関係した研究がどんな形で発表されているのか、今はどんな研究をされているのかなど、以前にご指導をいただいた先生のポスターをメインに見ていますが、興味のある領域を中心に展示を歩いていると、思わぬ出会いもあります。
今大会のポスター発表は、座長の下での発表はなく、質疑時間に発表者と参加者が自由に質疑するスタイルでした。これは私としては質問しやすいですね。
ちなみに、どうしても研究というより編集の視点になってしまい、コンセプトの面白さや、これからの社会実装的なところに惹かれます。その中からいくつか。
「ナッジを用いた地域住民への防災啓発(第一報) 一災害の備えに着目して一」
西嶋紗永 先生 田中健太郎 先生 都筑千景先生(大阪公立大学)
地域住民の自助力向上を目的とした防災啓発活動を実施し成果を検証した。防災啓発活動は、大学祭の参加者を対象に、ナッジ理論を用いて①100均でつくる防災リュックでは、節約できる費用をポスターで示し、実物を展示した。②避難カードでは、避難行動を段階に分けて簡潔に示し、名刺サイズで作成した。参加者自身で考え、決めた避難行動を記入してもらった。
防災リュックを準備しない理由の約7割は「何を用意したらいいかわからない」と「お金がかかる」であったが、この活動を通して、約9割が災害の備えに取り組むと回答した。
(感想)
「100均防災リュック」のことばがまずインパクトがありました。
「100均」の利用により、ナッジとして、Easy、Attractiveとなりますし、多くの人が参加するイベントその場でのカード作成でSocial Timelyにもなっています。
「100均」の利用で、説明無しで即「金銭的負担を抑えられる」という認知を活用したアイデアが素晴らしいですね。お話を伺うと参加者が予想以上だったとのことでした。活動自体には大きな予算がなくてもできるのも企画側にも魅力的かと。
「健康増進活動に参加した高齢者の睡眠データから行った個保健指導の費用対効果分析」
莫文平先生、山川みやえ先生(大阪大学)
独居及び虚弱高齢者を対象に、睡眠センサーによる睡眠レポートを対象群には個別郵送、介入群にレポートに加えて定期的な電話による保健指導を行う。
結果として、介入群は一人あたり約8.5万円の6年間累積介護給付費の削減効果が推定され、保健指導の実施で睡眠が改善し、介護給付費削減が期待できることも示唆された。
(感想)
睡眠の「見える化」と保健指導により、ハイリスクな高齢者に対して、本人の健康効果と、介護医療費の抑制に効果が出ています。ちなみに、保健指導実施者は事前に研修が行われ知識をしっかりと持っての対応とのことでした。
こうした「睡眠データ」を、特定保健指導など他の対象の保健指導で活用するのはどうか、と。減量は定期的な体重測定により効果の「見える化」が行動変容に結びつきやすいと聞きますが、睡眠は毎日計測が行えますし、睡眠の効果が実感できると、行動変容に結びつきやすく、継続性も高そうです。最近は睡眠アプリ(精度は色々かもですが)も多くあるので、計測への敷居も低そうですね。
「美唄市地域包括ケア推進条例の策定と地域包括ケア漫画作成の効果について」
赤沼 智美 先生(美唄市保健福祉部)
地域包括ケアの周知のため、市民からの相談が多い「骨折した高齢者の入退院後の生活」を漫画にし、啓発を行った。漫画の作成には、地域のボランティアや専門職の団体と、主人公の年齢、家族構成、転倒した場所と原因、退院後の居所などを意見交換し、その内容をもとにプロの漫画家が漫画を作成、 地域住民に配布した。
反響として「転倒予防に取り組もうと思った」「病院に相談室があることを知った」 などの声があった。住み慣れた地域でその人らしく自立した日常生活を営むことを可能にする仕組みである地域包括ケアについて、漫画によりわかりやすく、多くの人に伝えられる可能性があることが示唆された。
(感想)
漫画がとてもよいです。啓発用の漫画はどうしても伝えたい側からの「説明」が多くなってしまい、文字が多くなりがちですが、こちらの漫画は読者が想像できる「余白」があり、押し付けがましさがない。お話を伺うと、地域の方との意見交換がかなり反映されているそうです。漫画家の構成のうまさもとても感じます。所々、地元の建物や風景が描かれているのも親しみやすさがありますね。今後も漫画の作成が予定されているとのこと。ぜひ拝見したいです。
またしても長文になってしまいましたので、シンポジウムなどはまた。
※上記掲載には発表者のご確認をいただいています。