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白衣の天使の裏の顔

母は看護師だ。

憧れを持ちつつも、当時高校生だった私は、美容や音楽の道にも興味があった。

「手に職をつけなさい。そのような仕事で成功して食べていけるのはほんの一握りの人だけ。」
母は言った。

私も子どもだったから、とりあえず資格をとればその後自由にできるだろう、という安易な考えもあったと思う。

看護師という仕事は、かっこいい。憧れもある。

でも、やりたいのか?それはよくわからないけど
誰かのために何かをすることは嫌いじゃない。
何よりも、母が納得するなら。と看護師を目指す道へ進んだ。

紆余曲折あったものの、受験は無事に合格。
有名な急性期総合病院の附属学校で、家族はとても喜んでくれた。

嬉しかった。

患者さんに笑顔になってもらえるような優しい看護師になるんだ!
そう心から思っていた。希望があった。

でも実際は違う。現実は厳しい。



実習が始まり、いざ本物の医療現場を目の前にすると足がすくんだ。

こわい。

全てに対してそう感じた。
当然だ。命を預かり、ミスが命に直結する仕事。

でも今更辞められない、戻れない。
辞めたら私にはなんにもない。(と信じて疑わなかった)
やるしかなかった。

厳しい実習に追われる日々。
看護学生に人権はない。
挨拶は無視。空気と化す。

毎日毎日徹夜でレポートを仕上げ、怒られ、無視され、詰められる。

「根拠は?」

これを聞くと今でもゾワッとする。

「今お時間よろしいでしょうか」
記録を見てもらわなければ患者さんの所へ行けない。タイミングを見計らって声をかける。

「今忙しいの見てわからん?後にして」
…..待つ。戻ってこない。様子を伺うが、とても話しかけられる状態じゃない。
しばらく経ってようやく二度目の声掛けをする。

「この時間まで何してたん?」

書き上げればキリがない。実習に行くとこんなことが毎日毎日続くのだ。

白衣の天使
そんなの嘘だ。悪魔だろ。

できない自分に嫌気がさす。
実際は必要な単位は取れていたし、無事に卒業できればそれで十分なのだが、
なにしろ自分に自信がない。責任感は人一倍強い。

みんなできているのに、自分だけができていないように思えて仕方がない。

もっと頑張らなきゃだめだ。
自分が、自分を追い込んだ。
追い込めば追い込むほど、存在意義がわからなくなる。

なんのために生きてるんだろう
私は何もできない人間だ
なんてだめな人間なんだ

そんな意識がどんどん強くなっていった。

辞めたい辞めたい辞めたい。
でも、今辞めてどうするの?ぜーんぶ、無駄になる。
辞めれない。親に「辞めたい」だなんて言えない。

耐えた。ひたすら耐えた。感情を殺した。

どうやって乗り越えたのか、思い出せない。


今改めて思うこと。

なぜ、無視するのだろう。なぜ、意地悪な言い方しかできないんだろう。

患者さんには優しいのに。

もちろん忙しいという言葉では足りないほどに忙しいことはよくわかっているけれど
これが"看護実習あるある"になっていることに強い違和感を覚える。



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