プロローグ
猫の耳を買った。
知り合いが店長をやっている小売に幾つか入荷したときいて、取り置きを願った。ローテーブルの長辺を3:4に内分する辺りに置かれたオフホワイトの厚紙の箱。―長半径25cmの楕円形の側面には、テーブルの上面と並行に幅1cmずつ間をあけて、幅1cmのサテンリボンが5本巻かれていた。その金色のリボンの両端は箱の短半径の片側一方の位置で蝶型に結ばれて底面に対し垂直に並んでいた。
…箱の蓋の側面全体には幅2.5cmのアプリコットピンクのサテンリボンが張られ、本体にある金のリボンと同様直列するように蝶を模して結ばれている。上面は箔押し加工でチューリップを模した唐草模様と、その中央に弓矢を持ったディアーナがあしらわれている。
取り置きしたのは猫の耳であって箱ではないのだが、私はこの箱を関心した目で見つめた。厚紙とサテンリボンの対比は奇妙にチープな印象をもたらすが、リボンの結び方のそれはまるでオートクチュールの帽子に巻かれたような、出来上がりの優美さが生まれながらの仕立屋の技のようであるし、何の印刷もない本体とは異なり、蓋の上面は複雑な加工がしてある。それらは箱自体を微妙なバランスで美醜の美の側に立たせていた。
此れを封するものは、箱を2周して蓋の上で蝶結びされた幅5mmの青いベルベットリボンのみ。
その箱は3週と4日間、その場所に放置されていた。
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