古澤邸

第2章 軋轢の先に──古澤邸 立石遼太郎

遠い昔、遥か彼方の銀河系で…
ジョージ・ルーカス監督『スター・ウォーズ』


0 遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

画面に対して、正対した文字が現れる。「遠い昔、遥か彼方の銀河系で…」。映画『スター・ウォーズ』はいつもこの一文から始まる。
一瞬、間が空いて、あのファンファーレ。ファンファーレのあと、おなじみのテーマが流れ、正対したタイトルロゴが現れる。タイトルロゴがズームアウトし、オープニング・クロールと呼ばれる斜めに倒された文字が、銀河系の遥か彼方へと消えていく。
『スター・ウォーズ』の冒頭2分間、ここには“建築におけるフィクション”を解き明かす、2つの重要な手がかりが隠されている。ひとつ目は、正対と斜めの、文字の角度について。この件については後述する。まずは、つ目の手がかりである、「遠い昔、遥か彼方の銀河系で…」という書き出しの一文に注目したい。
第1章において、“現実とフィクションの分水嶺は、物理法則の影響を受けるか否かにある”と、定義した。遠い・昔・遥か・彼方・銀河系──『スター・ウォーズ』の書き出しの一文を構成する単語はすべて、物理法則の影響から逃れようとする傾向がある、といえるだろう。以上を鑑みると、「遠い昔、遥か彼方の銀河系で…」という一文は、“『スター・ウォーズ』がフィクションである”ということを表明した宣言文である、といってよい。

0.1 まさに今、目下此方の地球上で……

『スター・ウォーズ』の書き出しの一文の形式を借りれば、果たして建築物はどのような一文から始まるのだろう。結論からいえば、その書き出しは、”建築物が現実に存在していることを高らかに宣言する”ような一文となる。
遠い昔は“まさに今”。遥か彼方ではなく、“目下此方”。もちろん建築物は銀河系に存在しているが、銀河系はスケールが大きすぎる。さしずめ“地球上で……”といったところか。建築物の書き出しは、『スター・ウォーズ』の書き出しを構成していた単語の対義語で成り立つ。一文としてまとめると、
“まさに今、目下此方の地球上で……”。
そう、建築物は今・目下・此方・地球上に存在している。大げさな物言いをすれば、建築物は実存している。

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