第11章 横たわるサバイバルライン──中心のある家 立石遼太郎

世界は一つではない。だが複数の独立した世界があるわけでもない。
久保明教『機械カニバリズム 人間なきあとの人類学へ』講談社、2018

0 アンカーをつくる

「土台」は整った。12章で完成する「建築におけるフィクション」。その第12章を「上家」に喩えるなら、本章は土台と上家をつなぐ「アンカー」として位置づけられる。
アンカーを用意する前に、今一度、「建築におけるフィクション」という言葉について深く考えてみたい。常識的に考えれば、建築物は「現実の世界」に存在し、フィクションは「フィクションの世界」に存在している。建築におけるフィクションとは、現実とフィクションという相反するふたつの世界を横断する言葉である。
「建築におけるフィクション」がふたつの世界を横断しているのだから、アンカーを「現実の世界とフィクションの世界を架橋するもの」として位置付けることができれば、本連載はきれいに幕を閉じることができるだろう。土台は現実の世界に、上家はフィクションにあって、アンカーが両者を架橋する。これが最も理想的な幕引きだ。「建築におけるフィクション」についての物語が、徹頭徹尾フィクションの世界に存在していれば、そんな幕引きもできただろう。ただ、「建築におけるフィクション」はその身を半分、現実に浸している。

1 土台の性質

上家が本当にフィクションの世界にあるのか、第12章に入ってみなければわからない。では土台はどうか。土台が果たしてどちらの世界に属しているのか、まだはっきりしていない。事態をややこしくさせているのは、これまで10もの章を費やして整えた土台の方である。僕らがまずやるべきことは、土台の性質を確認することだろう。

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