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【オトナの歌謡ノベルズ】キング・オブ・ザ・テナー




本日、こちらに参加している【オトナの歌謡ノベルズ】。


オトナの気分でお楽しみください💖







ベン・ウェブスターの粘り付いて持ち上げるようなテナーサックス。この古くて小さいスタジオの馬鹿デカいスピーカーから音を出し、容赦なく鼓膜を揺さぶる。テナーを吹く熱い息遣いさえ荒削りなサックスのメロディ。極限まで落とした照明の中で、時々点滅するミキサー卓のボタンランプ。ジャズのリズムを刻む度に音量レベルの針が左右に大きく揺れる。武骨な中指は自然に反応する。

もっと、熱く。
このかすれるような高音が喘ぐ声にそっくりだ。唇はぽってりと厚めがいい。細い舌が伸びてきてその肉厚な唇をゆっくりと、ゆっくりとなぞっては濡れていく。知らず知らずのうちに口角からゆっくりと垂れてゆく、とろけそうな蜜。その蜜を集めておくれ。そのままその柔らかい口の中にぱっくりとくわえ込んで欲しい。くわえたらその湿った舌をぐるっと大きくまわす。真っ直ぐに切り揃えた前髪が上下に動くまで頭ごと動かすんだ。ゆっくりと。いいよ、たらっと蜜が脇から溢れてきても。半開きの口元から吐息が漏れる。

そうやって焦らすんだ。少しずつ白い胸元を開いていきながら。でも待て。その柔らかそうな胸元へ顔を埋める前に、すっきりとした細い首筋を舌で舐めさせてくれ。ビブラートで左右に振る首の動きをどうか、やめないで欲しい。

喉元の小さな窪みをゆっくりかき回すように舌を動かす。最初は触れるか、触れないかくらい。滑りが良くなってきたら強く吸い込んでみろ。窪みの方からくっついて来る。そしたらだんだん血の流れも早くなって来るのを感じるはずだ。そうなれば、気怠く虚ろな目を遠くへやりながら向こうから差し出してくるさ。滑らかな首筋を。喉元へためておいた蜜を上手く使って舌を這わせながら、一気に耳タブを仕留めるんだ。大抵は左耳のほうが感じやすいから大丈夫。一気に深いため息を漏らす。大きい耳のほうが好きなのは本能なのだろうか。その方が、舐めさせてもらいやすい。耳の上の方の薄くなった辺りは軽く噛み付いてやるんだ。その後直ぐに耳の形を舌でなぞって穴へ出し入れする。最後に吸い上げるのを忘れるな。きっと躰をよじらせる。そうなれば媚薬が効くまであっという間だ。きっと芥子ほど紅い下の方の花だってじんわり濡れて来てるはずだ。毒があるから気をつけろ。

ここまで来たら、少々荒っぽくシャツを剥ぎ取ったってひっぱたかれることはない。その代わりすかさず唇は塞いでおけ。そうすれば、むしろ向こうから首筋に抱きつくようにして衿の中へその細い両手の指を入れて背中をまさぐって来る。温かい肌に愛を探すみたいに。これでやっとこっちもシャツが脱げる。
ちょっと離れた隙に、濡れた目が尋ねる。息遣いを整えながら。
今度は、ナニしてくれるの?
一気にめちゃくちゃになりたい衝動に駆られる。

ふと手首を掴んで肘を頭の上へ高く上げる。大きく舌を出して二の腕を舐め上げる。不意をつかれて思わず声が出る。辞めるな、繰り返せ。腕を下ろしたがるが無理やり続けるんだ。たまに腋の下まで行く。ここで舌の状態を整える。再びたっぷりと蜜が出るまで。その後は腕に吸い跡が付くほど強く吸い込んでやる。声が出るんだ。甘い声が。スピーカーのボリュームを上げろ。テナーの音に掻き消されたって聞こえる。あの甘い、最大にエコーのかかったような鳴き声は。

そこまですれば、今度は向こうから、タイトスカートの裾を太腿まで持ち上げて肉付きのいい脚を、外側から絡みつかせてくる。こうなれば一気に前進だ。下半身をぴたりと合わせられる。まるでタンゴでも踊るように。少し体温を確かめ合ってお互いの敏感な場所を確認したら、躰の向きを変える。このミキサー卓に両手をつかせてやる。飛行機のコックピットのように赤や黄色の小さなランプが光るこれの高さがちょうどいい。

タイトスカートを思い切り持ち上げれば、弾力のある白く丸い肌が露わに目の前へ現れる。滑るようになめらかだ。だけどそこには、身につけているとは言い難い、細い紐だけの下着。こうなる事を待ち望んでいたな。ぴったりと食い込む紐は引っ張れば、テナーの音とは反対にパチンと高い音を立てる。もうイヤだとは言わないだろう。腰を前後に動かしたって、もっと欲しがるに決まってる。左右に動かしたら、きっともっと奥まで来るよう動いてくれるんだろう。もう止まることなんて不可能だ。このまま紐を押し退けて前へ進め、奥へ突き抜けろ。この欲望が脳天を尽きぬけるまで。

一番はこのテンポに動きを合わせることだ。余りの良さに息もつけないほど長い声を出すかもしれない。そしたらテンポを上げる。ミキサー卓のボタンをあちこち手当たり次第に触りまくる。何か掴まるものを探すように。遂には録音ブースのガラスにまで手が届き、掌を押し当て叩くともなく叩き始める。そうして夢中になって動いてるうちに聴こえなくなる。音楽なんか。あとは最後まで昇り詰めるだけだ。このまま奥でキツく締められているようだったら向こうも同じだ。ふたりで一緒にイカせてくれ。そしてこのテンポが止まることなく達する最高潮。
最後はもちろん、機関銃の銃弾をぶちまけるように派手なラストでいたい。

カチャッ。
鍵を閉め忘れたか!?
「お邪魔します。おはようございます。今日の収録、14時からで良かったですよね。」
この声だ、さっきの甘い声。耳の奥をくすぐる、高すぎず低すぎず湿った色気。ハリのあるトーンと艶のある文章尾。この声の虜だ。もう、この声だけでいい。
脇に置いてあった1.5リットル入りのエヴィアンをボトルごとグイグイと喉に滴らせながら飲み干す。

館内放送を読ませておくだけには何とももったいない。一本幾らのナレーション稼業。今度は留守番電話も読んで貰うようにしようか。





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『King of the Tenors』1954 Verve

Ben Webster (tenor sax.)
Oscar Peterson (p)
Ray Brown (b)
Alvin Stoller (drs.)





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