短編【私だって傷つく】

梅雨どきより前に満開だった八重桜はとっくに散り、また来年と名残惜しそうに枝を揺らしている。
今年の梅雨は長い。
じめっとした湿気は耐え難く、頭痛が収まらない。
私が外出をすると、ここぞとばかりに雨が降る。
空に叫んでも虚しい。
頭が痛くたって、いつでも笑顔で歩いている。
元気に見えたらいいなと思って。
明るい声は雨の音にかき消されてしまう。
それでも私はいつも空気。
私だって凶器を向けられたら傷つく。
致命傷を負わなければ、痛みに気づいて貰うことはできないのだろうか。
帰り道、少し弱くなった雨。
傘をささずに濡れた瞼は、雨か涙かすら分からない。
滲む血が、また傷む。
どうすればこの血は止まるのか、考えたところで未だに重たい頭を壁にもたれた。
傷口は開いていく。
少しの消毒とガーゼで塞いでも、また切られては開いていく。
誰も気づかない。
目を背け、気づこうとしない。
痛い、痛い、痛い。
痛さを訴えたら、痛いと思うから痛いんだと言われてしまった。
苦しい。
苦しくて倒れそうだ。
もうこの傷は治らない。

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