連休のジレンマ
『今年のゴールデンウィークは最大で10連休になるようです』
長期連休が近づくと必ずと言っていいほどそんな話題が情報番組で話される。
俺の勤め先は見事に10連休であった。
この連休の長さこそ、サラリーマンにおける飴と鞭のウェルダーズオリジナルに該当するほど劇甘の飴だと認識している。
「ありがたや、ありがたや‥‥」
飴を舐めながら感謝の気持ちでゴールデンウィークに突入した。
しかしながら周りを見渡してみると今年のゴールデンウィークはそこまで連休にならない人が多かったようだ。
羨ましがられると同時に聞かれることがある。
『そんなに休みだったらどっか出掛けるんでしょう?』
10連休を伝えると十中八九聞かれるこの質問。
俺の答えは、
「いえ、どこも行きませぬ!」
と語尾を強めてお答えする。
『えーもったいないなぁ』
と言われるまでがよくある流れだ。
とにかく混んでいるのが嫌なので、車の渋滞も長蛇の列も並びたくない。
待ってる時間が苦行に思えて仕方がないので、結局長期連休はどこも行かないのが恒例だ。
とはいえずっと引きこもっている訳でもなく、行くとしてもニッチでアングラなスポットばかりだ。
例えば、
①近所の変電所(息子が鉄塔にハマっている)
②貨物列車を拝める見る鉄スポット
③隠れ家がすぎてみんな知らない地元のカフェ
④家の前でBBQ
⑤深夜近くのサウナ
どう考えても空いてる所にしか行かなかった。
当たり前だがほとんど人は居ないし、果たして本当にゴールデンウィーク真っ最中なのか?なんて疑問すら浮かんでいた。
よく考えてみればこれらの過ごし方は普通の土日の延長線上でしかなかった。
ゴールデンウィークも最終日になって、
「この過ごし方で本当に良かったのか?俺も小旅行のひとつでも行けば良かったのでは‥?」
そんな焦燥感に駆られながら今年のゴールデンウィークの幕は閉じた。
焦げついた気持ちで連休明けの仕事に出る。
事務所の机には誰かが出掛けた証拠でもあるお土産のお菓子が置いてある。
「そりゃそうさ‥だって10連休だもの、旅行くらいみんな行くさ‥」
もう取り戻せない己の過ごし方にさらなる不安が募る。
同僚が俺に話し掛けてきた。
『ゴールデンウィークどっか行ったんすか?』
「いや、どこも‥君はどっか行ったの?」
『俺は山梨と横浜に軽く旅行に行きましたよー!』
「へ、へぇーそりゃ良いね‥でも混んでなかったの?」
『これが今まで体験した事ないくらい道が混んでて、出掛けたのを後悔するレベルでしたよ‥』
ほらー!見たことか!!やっぱり混んでるんじゃん!!!!だから連休は旅行とか行きたくないんだよー!!
そう心の中で噛み締めるように唱えながら同僚と話し終えた。
「やはり俺の過ごし方は間違って無かった!」そう確信した。って確信するのも毎年恒例だ。
この流れを長期連休がある度に繰り返しているくせに、毎回連休最終日になってどこも行かなかった事に後悔してしまうのはなぜだろうか。
心のどこかにメジャースポットへの憧れや、連休を使ってしか行けない遠方への旅行に行きたい願望があるのだろうか。
果たして俺はいつか連休に旅行に行けるのだろうか?
そんなジレンマを抱えながら、また次の長期連休を心待ちにして鞭打って仕事に臨もうと思う所存であります。