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気持ちには旬がある

”したい”という気持ちには旬があると思っている。待ち焦がれることも素敵だけど、でも私はできるだけやりたいとか、行きたいとか、ほしいとか思った時に手を伸ばすようにしている。

そのうちいつかと思っていると、その旬は過ぎ去り、熟し過ぎてしまって、それが本当に”したいこと”のか、それとも”しなきゃいけないこと”になってるのか分からなくなってしまうから。
機会を奪われた昨今、なおさらそう思う。

それで思い出すのは、3年前に決行したフランスはニースの旅。友人とニースで待ち合わせするも、ストで飛行機が飛ばず一時合流すら危ぶまれたけど、結局は無事合流でき、街を歩いたり、誰もいない朝の地中海で泳いだりした旅。
そんなパワーフレーズに溢れた初夏の旅の話。

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ニースで待ち合わせしない?

こんなパワフルな提案をしたのが私だったのか、友人だったのか、もう覚えていない。当時、友人はスペインに留学中。私は日本からの合流になるから行くのに時間はかかるけど、”ニースで待ち合わせ”というスーパーブルジョワな響きに心が踊ってどうしようもなく、やろう!と2つ返事でokした。

フランスがヴァカンスに突入する7月末になろうものなら避暑地のニースは人が増えてゆっくりできないよね、と急いで6月末のチケットを確保する。この時、実は5月。とにかく行きたいという気持ちだけで突き進んだ私たちのプチヴァカンスの幕開け。

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日本からニースまでの直行便はなく、まずパリに行き、そこからニースへ。パリの空港到着後、スマホの電源をONにする。無事フランス入りしたよ、と友人に連絡するために。

なんて便利な世の中なんだ、と思いながらメッセンジャーを開けた私を待っていたのは友人からのメッセージ。

スペインからのフライトがストで飛ばなくなっちゃった

だから半日遅れるから先に楽しんでてね、と。

いきなりの海外旅行の洗礼に一瞬変な声が出る。見知らぬ土地でいきなり1人行動か。でもまぁ治安も良いし、予定通りにならないのも旅の醍醐味。危険な国を選ばなくてよかったと思いながら、夏の長い日もどっぷり暮れる頃、単身ニース空港に降り立った。宿に直行し、泥のように眠った。

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朝起きた私を迎えてくれたのは、眩い光、色。日本で使ってるコンタクトと同じもの持ってきたよね?と思いたくなるぐらい網膜に映される色が違いすぎる。ニースが色で、光で、歓迎してくれてる。本当に来れて良かった…

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カフェで朝ごはんを食べたり、高台に登ったり、市場で身振り手振りで買い物したりするうちに半日があっという間に過ぎ、「遅れてごめんー!」と友人と合流。

ニースでちゃんと合流できたということで旅は達成したも同然。あとは美術館に行ったり、ゆっくりご飯を食べたり、グラースやカンヌなどの近隣の街に足を伸ばし散歩したり、お茶したりとゆったりと過ごす。

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さて楽しかったニースの旅も次の日の昼まで。やり残したことはないか、心残りはないか、という話になる。美術館も行ったし、グラースで香水も作ったし、カンヌの通りも歩いたし。一通りはやったよね、と話をしてるうちにふと視線を動かすと目の前に広がる地中海。そして気づいた。

地中海で泳いでない…泳いでみたい。

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じゃぁ、泳ごう

地中海で泳ぐなんて考えてなくて荷物に水着なんて入っていない。でも水着がないからと言って、このチャンスをふいにはするもんか。だって誰もいないニース、誰もいない地中海で泳げるなんて機会、人生にそうはない。

すぐさま現地調達に向かう。適当な店に入って1番安かった10ユーロの水着を手に取る。今ドキの流行らしくお腹の部分が開いたストラップレスの、どぎついネオンオレンジ色のワンピース水着。

1ミリも好みでない水着だけど、目的達成のために手段は選んでいられない。これを着て明日の朝は地中海で泳ぐんだ、と意気込み、会計をした。

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ニースで迎える最後の朝。例のネオンオレンジの水着を着てTシャツを羽織り、ドアを開ける。温まりきってない空気に肌を撫でられ、軽く鳥肌が立つ。日中は25度近くなるとは言え、朝夕は冷えるのがヨーロッパの初夏。

思ったより冷えている朝の空気に一瞬足がすくむ。友人も同じことを思ってるのが伝わる。が、彼女も私も中に戻るという選択肢を選ぶタイプの人間ではない。そして一歩、外に踏み出す。

10分も歩けば地中海にたどり着く。まだ誰もいない朝の静かな海。

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服を脱ぎ、海の方へ。つま先、膝、お腹、と少しずつ水に入っていく。水は思った以上に冷たく、お腹よりも深いところにはなかなか足が進まない。友人と顔を思わず見合わせる。

誰もいない地中海で泳げるのは一生でこれきりよ

と言い捨て、友人が潔く頭から水に潜った。あまりのかっこよさにちょっとぽかんとしてしまった私も慌てて後を追って水に潜る。

6月の地中海は冷たかった。2人してつっめたい、さっむいしか言ってないし、なんなら海辺も海底も砂じゃなく砂利だったから足の裏も痛かった。水着も好みじゃないし。でも水の中に入って、地中海で泳いで、本当に良かった。

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ニースで友人と待ち合わせしたり、その友人の飛行機がストで飛ばなくなったり、朝の地中海で泳いでみたり。多分もう二度と過ごせない6月の旅の話。

一緒に行った友人はその後結婚し、いまは子育ての真っ只中。私も職場が変わり、前ほど自由に休暇が取ることはできない。あの旅は、あのタイミング、あの勢いがあったから実現できた。

旅をしてから3年ほど経ったけど、その友人とお茶をすると未だに「あのニースの旅ほんと良かったよね」と言って、ふふって2人で笑い合ってしまう。こうやって旅の後も想いを馳せられるのも含めて旅というのだろう。想いを馳せられる限り、旅は終わらない。

やりたいとか、行きたいとか、ほしいという気持ちに動かされてしたことっで、思い出の中でずっと旬を迎えていられるのかもしれない。旬のタイミングで行けたあのニースの旅は、今も私の中で続いている。

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