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逃避幻想の日々

誰かが落として行った
1粒の種をひろった
紅い楕円の形をした
小さな種だった


失くしていたあの日々が
脳裏で激しい旋律を奏で
道端にはさっきまでは
無かったはずの花が
私に語りかける様に


無風の中で踊る


歩いてきたはずの道も
振り返ると闇に煙る
色を失くした雑踏に
ゆらゆらと揺れる
蜉蝣を見た


紅い楕円の形をした種は
掌の上で紅い紅い
涙を流した
それは 止めどなく流れ
掌から溢れ出した涙は
ゆっくりと静かに
この身体を伝い
1色の色彩で
全てを紅く染めてゆく


紅く染まった身体は
体液と同化しながら
全てを目の前から消した


そして
また、新しい
1粒の種になる

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