映画『プーと大人になった僕』

社会人になるまであと3日、今の私にぴったりな映画を観た。それが『プーと大人になった僕』。この映画は、大人になっても忘れてはいけない大切なものを私に教えてくれた。

『プーと大人になった僕』は、ディズニーアニメ『くまとプーさん』の主人公である少年クリストファー・ロビンが大人になって、プーさんたちと再会するという物語だ。作中の中盤までは、大人になったクリストファー・ロビンが当時から変わらずのんびり屋なプーさんに辛く当たり、悲壮感が漂う。2人が別々に過ごした、長い空白の時間が生み出した軋轢。なんという無力感だろう。しかし、終盤では100エーカーの森の仲間たちやクリストファーの家族が彼のために奮闘し、ついに彼は思い出す。家族、仲間たちと過ごす時間の尊さを・・・。

この作品のクリストファー・ロビンは、私にとって、いつかそうなってしまうのではないかと危惧している未来の自分の姿そのものだった。クリストファーの境遇が、自分とあまりにも近いと感じたのだ。大学を卒業し、入社を控えている私も、かつては想像の世界に翼を広げていた。紙に描いた自分のキャラクターを人の形に切り取ってお人形遊びしたり、ぬいぐるみと一緒にお出かけしたり、絵本を読んだりすることが何より好きだった。しかし、今となってはどうだ。大学では人付き合いに疲弊しきり、いざ卒業しても、目先の社会人生活に怯えて、最後の長期休暇を夜な夜な泣いて過ごす日々。埃をかぶったぬいぐるみ。家族との付き合いは面倒なものに変わり、想像の翼はとうに錆びてしまった。世間体を気にしてのんびり屋のプーさんを叱責するクリストファーに、未来の自分が重なった気がした。

この作品が私に希望をもたらしたのは、周りの人間がクリストファーを救おうとし、彼がそれに気づいたことだ。大切な会議で書類を忘れたクリストファー。クリストファーの娘と100エーカーの森の仲間たちは彼に書類を届けるため、はるか北方の地・ロンドンを訪れる。娘を心配する妻はクリストファーの仕事場へ先回りし、彼に事情を伝えると、彼は部署の存続をかけた重要な会議に背を向けて、妻と娘探しに駆け出した。この瞬間、上司に一瞥をくれた彼の瞳には、大切なものの優先順位を見定め、世間体をかなぐり捨てる決意が滲んでいた。娘を見つけた彼はプーさんと和解し、大切な家族とずっとそばにいることを誓ったのだった。かつて彼が想像の羽を広げた思い出の場所、100エーカーの森で。

「何もしないことは最高の何かにつながる」。プーさんのこの言葉は、めまぐるしく回り変化を要求されるこの時代において、あえて過去の思い出に還り、自分の本質を捉え直す大切さを説いている。私はハッとした。社会人生活に怯えて、何もしない自分に嫌気が差す日々だったけど、これでいいんだと思った。何もしなくていい。自分の内側と対話して、自分にとって何が大切なのか見つけさえすればいい。今と子供時代の私は違うし、これから社会人になって変わることもあるだろう。だから時々、ここに帰ってこよう。かつて想像によって押し広げた大空、子どもの頃の「友達」が住まう100エーカーの森に。

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